嫌な予感が的中。菅前首相の国葬「弔辞」で飛び出した衝撃の言葉

2022.09.29
 

演説は進み、菅氏は環太平洋経済連携協定(TPP)交渉について安倍氏が「タイミングを失してはならない」と早期の交渉入りを主張したことに触れつつ「あなたの判断はいつも正しかった」と述べた。

「いつも正しかった」。それは菅氏の主観であろう。

TPPに限らないが、安倍政治の評価は現時点でも激しい賛否両論があり、歴史的な評価も定まっていない。それを承知の上で、葬儀という批判のしにくい場を利用して、あえてその正しさを強調する。それも「さまざまな正しい判断を行ってきた」程度ならまだしも「『いつも』正しかった」と言ってのける。

強い言葉で言えば卑怯だし、控えめに言ってもたしなみがなさ過ぎる。

この直後に続いた言葉は、さらにあ然とさせられるものだった。

「安倍総理。日本国は、あなたという歴史上かけがえのないリーダーをいただいたからこそ、特定秘密保護法、一連の平和安全法制、改正組織犯罪処罰法など、難しかった法案を、すべて成立させることができました」

いずれも、安倍政治の中でも最も批判の強い、まさに賛否が大きく割れた法案である。平和安全法制、すなわち安全保障基本法は、集団的自衛権の容認容認について、法的根拠もなく(この言葉、今回の国葬をめぐってもしばしば聞かれた)閣議決定のみで憲法解釈を変更し「後付け」で作られた法律だ。この法律をはじめ、国民の「知る権利」の侵害につながりかねない特定秘密保護法も、いわゆる「共謀罪」創設を含む改正組織犯罪処罰法も、いずれも国会での強行採決の末に成立している。

安倍氏の業績の多くで賛否が分かれていることは間違いないが、中でも特に先鋭的に賛否が分かれ、国会でも円満な採決ができなかったこれらの法律について「すべて成立させることができました」と、安倍氏の大きな実績であるかのように、誇らしげに語る。その神経が信じられない。

保坂展人・東京都世田谷区長は27日、自身のツイッターでこう疑問を投げかけた。

「国葬儀」で国費を投入しているからには、政党会派の立場を離れた弔辞の枠をはみ出すべきではない。

世論の賛否の割れた法案を強行した国会対応をほめそやすのは、「国葬儀」にふさわしいだろうか。

全く同感である。

そしていよいよ最後の場面。菅氏は、安倍氏の衆院議員会館の事務所の机に、岡義武著『山県有朋』(岩波書店)が読みかけの状態で置かれていたことに触れた。

菅氏は、この本は「ここまで読んだ」という最後のページの端が折られており、マーカーペンで線を引いたところに、山県が盟友・伊藤博文に先立たれ、故人をしのんで詠んだ歌であった、と紹介。「この歌くらい、私自身の思いをよく詠んだ一首はありません」と述べ「かたりあひて 尽しゝ人は 先立ちぬ 今より後の 世をいかにせむ」と読み上げた。

このくだりがある意味最大の「感動ポイント」としてネット上で賞賛されているわけだが、筆者はそれ以前に、安倍氏が最後に読み、菅氏が紹介したのが山県有朋だったのか、という点が引っかかってしまい、その後のくだりが心に入ってこなかった(菅氏の「友人」としての切ない気持ちには共感できるのだが)。どうしても山県というと、明治の自由民権運動の高まりに「強い警戒と憎悪との気持を抱いた」(同書)さまが思い浮かんでしまうのだ。

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