保守派の常套句「安倍晋三元首相は土下座外交を終わらせた」の大ウソ

2022.10.03
 

例えば、1990年9月の「金丸訪朝団」と呼ばれる自民党、社会党(当時)の政治家の北朝鮮訪問だ。団長の金丸信は、金日成北朝鮮国家主席に対して、国交正常化や統治時代の補償とともに『南北朝鮮分断後45年間についての補償』という約束をした。

しかし、朝鮮半島の南北分断まで日本の責任であるという金日成の主張を受け入れてしまった上に、「大韓航空機爆破事件」の犯人・金賢姫死刑囚の証言により、当時日本国民の関心が高まっていた「日本人拉致問題」にまったく触れなかったことで、「土下座外交」であると批判された。

また、中国とは、日中平和友好条約が調印された後、中国が改革開放政策に踏み切ったことで1979年から「対中ODA(政府開発援助)」が始まった。2022年3月末まで42年間続けられた。この間、「円借款」が約3兆3,165億円、「無償資金協力」は約1,576億円、「技術協力」約1,858億円で、拠出した総額は約3兆6,600億円にのぼっている。

80年代は、円借款による鉄道、空港、港湾、発電所、病院などの多くの大規模インフラが整備された。90年代からは地下鉄建設や内陸部の貧困解消、環境対策などの支援が行われた。対中ODAは、中国が世界第2位の経済大国となる高度経済成長に大きく貢献したといえる。

しかし、中国は次第に自信をつけて、日本に対して強い態度を取るようになった。過去の過ちの謝罪を繰り返し求める「歴史カード」を駆使して外交を有利に進めようとする傾向を強めたのだ。

元々、対中ODAには中国が戦後賠償を放棄した「見返り」という性質があった。だが、中国は露骨に、日本が支援を続けるのは当然だという態度を取るようになった。また、中国政府は、日本のODAを国民に対して周知を怠り、中国国民が日本の支援を知らないという事態も起きた。

さらに、中国は、日本を追い越して世界第2位の経済大国になってからも、日本の支援を受け続けた。それだけではなく、アフリカ、アジア、東欧、南米など新興国への影響力を強化するための経済援助を行った。さまざまな新興国からは中国への謝意が評されている。しかし、これは日本の中国への援助が「中国からの援助」に化けて途上国に渡ったと疑われるものだ。

そして、対中ODAは、中国の軍事費の急拡大による軍事技術の増強に貢献している。直接ODAが軍事費に使われているとはいわない。しかし、ODAが非軍事の経済開発に使われれば、中国が軍事費に回せる予算が増えるのは明らかであり、中国の軍事大国化に間接的ながら貢献してしまう結果となっている。

このような状況で、2006-7年には「一定の役割を終えた」として、無償資金協力と円借款を打ち切った。しかし、技術協力はその後も2022年3月まで続けられた。これが、日本国益を損なう「土下座外交」だと批判されてきたのだ。

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