保守派の常套句「安倍晋三元首相は土下座外交を終わらせた」の大ウソ

2022.10.03
 

安倍元首相は、日本の「土下座外交」を止めようとした人だと言われている。長年続いてきた中国への支援に終止符を打ったとされるからだ。2018年10月に訪中した安倍首相(当時)は、「中国は世界第2位の経済大国に発展し、ODAはその歴史的使命を終えた」と発言し、技術協力を終了する意向を中国に伝えた。そして、22年3月に対中ODAは完全に終了したのだ。

だが、安倍元首相が、「土下座外交」を終わらせたのかどうかは、実際は疑わしい。確かに、対中ODAは終了させた。しかし、安倍首相(当時)は、ODAに代わり、第三国の開発について中国と協議する「開発協力対話」の発足を提案した。これは、中国が推進する巨大経済圏構想「一帯一路」への協力であった。

従来、中国が設立した「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」への不参加を決定するなど、日本政府は一帯一路には非協力的な姿勢であった。安倍首相の発言は、政府方針を大転換させるものであった。

安倍元首相は、習近平中国国家主席に対して、「対中ODAの新規供与終了を踏まえ、今後は開発分野における対話・人材交流や地球規模課題における協力を通じ、両国が肩を並べて地域・世界の安定と繁栄に貢献する時代を築いていきたい」旨を述べたという。

要するに、実質的に「戦後賠償の見返り」だった対中ODAは一旦終了させるが、「戦後賠償の見返り」これからも続けていくと宣言したに等しいのだ。「土下座外交」はやめないということだから、習主席が歓迎したのは当然だ。

また、2020年、世界が新型コロナウイルス感染症のパンデミックに襲われた。その時、習主席の「国賓」としての訪日の実現にこだわり、安倍首相は中国からの入国制限の実行をためらい、感染を拡大させたのではないかと批判された。

当時、日中間には、尖閣諸島周辺での領海侵入、中国本土での日本人の拘束問題、日本産食品・飼料の輸入規制、香港・ウイグルなどの人権問題の4つの懸案があった。だが、これらの解決の目途が立たないまま、安倍首相は習主席の国賓としての訪日実現を粘り強く進めようとした。

結果として、新型コロナの感染拡大で、習主席の訪日は延期となった。だが、実現していれば、国益を損ない「天皇の政治利用」につながる、究極の「土下座外交」になりかねない危険性があった。

安倍政権の外交で特筆すべきは、ウラジーミル・プーチン露大統領と27回の首脳会談を行ったことだ。それは、安倍首相とプーチン大統領の個人的な信頼関係の醸成につながったという。だが、日本側が望んできた「北方領土の返還」や「日露平和友好条約」の締結のための交渉は進展がなかった。

一方、ロシアが長年望んできた、極東開発への日本の協力は実現した。安倍・プーチン両首脳は、「8項目の経済協力」について、民間を含めた80件の案件の具体化で合意した。日本側の経済協力の総額は3,000億円規模となった。

エネルギー分野では、石油や天然ガスなどロシアの地下資源開発での協力や、天然ガス・石油開発「サハリン2」のLNG生産設備増強、丸紅や国際石油開発帝石などがロシア国営石油会社とサハリン沖の炭化水素探査などが盛り込まれた。また、医療・保険分野では、三井物産が製薬大手のアール・ファーム社と資本提携に関わる覚書を交わした。日本側による投融資額は3,000億円規模になり、過去最大規模の対ロシア経済協力となった。

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