特筆すべきは、この経済協力がロシアにとって切実に必要なものだったことだ。ウクライナ戦争でロシアが受けた経済制裁でも明らかなように、ロシア経済の弱点は、「資源輸出への依存度が高く、資源価格の変化に対して脆弱性が高い」ということだ。
資源に頼らない産業の多角化は、ロシアにとって最重要課題である。現状、冬季になると豪雪等で、極端に稼働率が落ちてしまうという問題がある。私は、ロシア・サハリン州を5回フィールドワークしたことがあるが、サハリン州には、ほとんど製造業がない。
ただし、終戦までの日本統治時代には、製紙工場などが稼働していた。日本の製造業の技術や、工場運営のノウハウがあれば、冬季でも生産性を落とさず、工場を稼働することができるだろう。ロシアには、「日本企業との深い付き合いは、ロシアの製造業大国への近道だ」との強い期待があった。その期待に安倍政権が応えたということだ。
プーチン大統領が、安倍元首相に深い信頼感を持つのは当然だろう。北方領土問題を棚に上げて、ロシア側の切実な要望をすべて聞いてくれたのだから。
一方、岸田首相がウクライナ戦争で、欧米と協調してロシアによる「力による一方的な現状変更」を認めない姿勢を取った時、プーチン大統領は逆切れにも近い激しい非難を日本に浴びせた。
これは、日本はロシアの要求にすべて黙って従うものだということが、ロシアにとって当然であることを示しているのではないか。ロシアからすれば、それが突然破られたから、日本に切れたのだ。要するに、プーチン大統領の安倍元首相への信頼とは「土下座外交」の結果にすぎなかったのではないだろうか。
安倍元首相暗殺犯が、旧統一教会信者の息子だったことをきっかけに、安倍派を中心とする自民党「保守派」の政治家と、旧統一教会の密接な関係が明らかになった。衝撃的なのは、旧統一教会が「韓国を36年間植民地支配した日本は『サタンの国』であり、贖罪(しょくざい)のために日本人は寄付をしなければならない」という協議を説いていたことだ。
つまり「反日」と呼んでも過言ではない教義を説いていた教団から、「愛国」を訴えてきた保守派の政治家が票をもらっていたということだ。
私は、旧統一教会と政治の問題は、日本の保守派が、国内では大きな顔をしながら、外国勢力に対してはまるで弱腰で謝罪を繰り返す「二面性」「内弁慶体質」であることを、垣間見せてくれたのだと考えている。
日本の「土下座外交」は、実はなにも変わっていないのではないか。いや、「国益」を守るために身をささげる存在だと思ってきた保守派こそが、「土下座外交」を率先して進めてきたのではないかと、厳しく問いただすべきだと考える。
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