トランプ復権に繋がるか。在米作家がアメリカ中間選挙を大胆予測

 

ただ、とりあえず現時点では、AZは民主、NVは共和、GAは民主というストーリーで進めると、OH・PA抜きで「49対49」、仮にこれを前提に話を進めます。

まず、OHですが、ここはロブ・ポートマンという共和党現職が引退し、新人の争いです。民主党はティム・ライアンという地元出身のベテラン下院議員が上院鞍替えに挑戦。これに対して、共和党はトランプの支持を受けたJD・ヴァンスという候補が出ています。

まずライアンという人は、若いときから政治を志して活動してきた人ですが、とにかく「労働者や農民の代表」というトーンで、ドブ板選挙を展開しています。主張も、民主党の平均値+中道です。

一方で、共和党のヴァンスという人は、実は日本でも一定程度知られたノンフィクション『ヒルベリー・エレジー』の著者で、オハイオの貧しい元鉱山町の出身です。この本ですが、「置き去りにされた白人層」の生々しい貧困と絶望を描いたとして、2016年の「トランプ現象」を読み解く上で「この怨念がトランプを生んだ」というような解説がされて有名になったのでした。

では、ヴァンスはトランプ派だったのかというと、決してそうではありませんでした。確かに貧困地区の出身ですが、ヴァンスはイエール大の法科大学院を卒業したエリートで、海兵隊での戦功もある民主党支持者だったのでした。ですから、当初はアンチ・トランプだったのです。ところが、とにかく「あの」『ヒルベリー・エレジー』の著者だということで、自分とは関係のないところでトランプ派から勝手に支持をされた格好であり、本人は相当困惑しながらの選挙戦となっているようです。

また、ヴァンスの夫人はインド系のアメリカ人であり、そこを一部の保守派から「困窮する白人の代表とは違う」と文句を言われたこともあったようです。(この辺は、英国のスノック次期首相と酷似していますが)、ヴァンス自身がヘソを曲げたのか、あるいは鬱になったのか分かりませんが、この夏には選挙戦をストップしていたこともあるのです。

そんな複雑な事情があるということは、オハイオの地元ではかなり知れ渡っており、また相手のライアン候補からは、そうしたヴァンスの「揺れ」を叩くようなネガキャンもかなり来ているようです。

では、そうした脆弱さを抱えたヴァンスはライアンに負けるのかというと、これは非常に微妙で接戦になると思われます。

一方で、その東隣のPA州ですが、ここも共和党の現職パット・トーミー議員が引退するので、新人の一騎打ちとなっています。ちなみに、トーミー議員の引退の理由ですが、議事堂暴動事件を受けた「トランプ弾劾審議」に際して、賛成票を投じたためにトランプ派の票を計算できなくなり、従って予備選を勝ち抜く可能性が消えたためでした。

さて、そのPAでは、トランプの推す医師でTVタレントのメーメット・オズ候補(共和)に対して、ジョン・フェタマン候補(民主)が対決するという構図になっています。

オズ候補ですが、実はトランプ派として激しい予備選を僅差で勝って候補になった経緯がありますが、その前はTVで有名な医事評論家でした。そもそもは、オプラ・ウィンフリーの番組のレギュラーゲストとして人気が出たこともあり、基本的にはリベラル寄りでしたが、コロナ対策でアンチ民主党に転じたということのようです。また、両親がトルコ出身というイスラム系移民ということでも異色です。

一方のフェタマン候補(民主)は、ハーバードで公共政策修士を取ったインテリですが、スキンヘッドにヒゲという、いかにもフィラデルフィアの「ストリートのお兄ちゃんが中年になった」的な一種「コワモテ」で庶民派という容貌をしています。また、演説の内容は庶民派+中道路線でかなり新鮮な魅力があるという声もあります。問題は、予備選の前に軽い脳出血を経験していることで、健康問題を取り上げての攻撃を受けていますが、どうやら問題はないようです。

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