繰下げ受給をしても在職老齢年金で支給停止になった年金は戻ってこない
まず、65歳までの年金というのは「特別支給の老齢厚生年金」です。会社員として働いていると収入と年金の合計額が28万円以上になれば、年金が一部または全額支給停止になります(在職老齢年金)。この制度は2022年4月に基準額が47万円以上に改正されました。Aさんの場合は、基準額が28万円のときでしたので年金が全額停止になってしまいました。
65歳以降も会社員などで働く場合は、収入と年金額の合計が47万円以上になれば、年金の一部または全額が支給停止になります。しかし、47万円というと会社役員クラスの収入になるので、適用される人は少ないです。Aさんも年金と給与の支給額の合計は47万円以下なので、年金は支給停止にはなりません。
Aさんの勘違いは、「働いていると年金が支給停止になると思い、繰下げれば大丈夫」と思ったところです。実際は、基準額以下なので年金は満額受け取れます。そして仮に支給停止になった場合、繰下げ受給をしても後で受け取ることができませんし、増額もされません。支給停止になった年金は、そのままなくなります。
繰下げ受給をすると加給年金を受け取ることができない
総じて「繰下げ受給」は、将来の年金受給額が増額するので、よい選択です。
しかし、Aさんのさらなる失敗は、14歳年下の配偶者がいるので、14年分の加給年金が丸損になるということです。加給年金の支給額は年間約39万円なので、14年分だと総額546万円の損をしてしまいます。
加給年金とは厚生年金の家族手当のようなもので、配偶者が65歳になるまで支給されます。ところが、繰下げ受給をしている間は加給年金を受け取ることはできません。
配偶者の年齢差が5歳未満くらいならば、厚生年金を繰下げることで増額した年金を受け取った方が得になるケースもあります。しかし10年以上の年齢差がある場合には、加給年金を受け取った方がはるかに得になります。
Aさんの場合の、もっとも得する年金の受け取り方は、65歳で厚生年金を受け取り、基礎年金を繰下げ受給することだったのです。そうすると、加給年金も受け取ることができるし、基礎年金も増額になります。
65歳からの年金を未支給分として一括で受け取る
年金は一度受け取ってしまうと、途中から変更することができません。Aさんの場合には、65歳から基礎年金を受け取っているのでそのまま基礎年金を受給します。
そこでAさんには、厚生年金の支給開始の手続きをしてもらいました。66歳からの支給開始ならば、繰下げ受給にすると1年分の増額(8.4%)になりますが、繰下げ受給にしてしまうと1年分の加給年金を受け取ることができません。繰下げ受給ではなく、65歳からの未支給分として一括で受け取る方法にしました。
Aさんは、その後は基礎年金+厚生年金+加給年金(配偶者が65歳になるまで)を受け取ることになります。