核物質の濃縮度も兵器転用レベルまで高め、核合意の当事者でもある欧州(英独仏)と後ろ盾でもある中国とロシアを巻き込んで、制裁解除と投資の再開に向けた駆け引きを続けていますが、アメリカは核合意から離脱して、今では“当事国”でないにもかかわらず、口出ししてくる状況に、表向きは苛立ちながらも、イラン政府は成果を得るためにはアメリカとの合意が欠かせないことも知っており、よい条件を引き出すために、アメリカのレッドラインぎりぎりを探っているように思われます。
例えば、最近のイランによるロシアへの無人ドローン兵器の供与やミサイルの供与、そして革命防衛隊のロシアへの派遣などは、確実にアメリカの癪に障る内容と見られていますが、まだレッドラインには至っていないようです。
ただ、イランの“参戦”により、ウクライナでの市民の無差別殺戮が加速し、かつロシア軍の立て直しにも貢献しているという情報もあることから、どこまでアメリカ政府の我慢がもつかは微妙になってきていますが、そこに追い打ちをかけ、レッドラインを踏み越える可能性がある“噂”が「最近、急にロシアが言及を始めた”dirty bomb”は、実際はイランの手を借りてロシアがウクライナに投入するものではないか」という内容です。
もちろん公式には認められていない情報ですし、私も真偽のほどはわかりませんが、イランには核兵器を作るキャパシティーは物理的にないと思われますが、dirty bombを作るキャパシティーはあると考えられ、もしそれが可能であり、かつ無人ドローンに搭載可能なレベルに小型化されているのであれは、非常に恐ろしい結果をウクライナの人々にもたらすことを意味します。
この真偽情報がどこかではっきりした場合、それはアメリカのレッドラインを踏み越えることを意味し、アメリカのキャパシティーが許せば、ロシアや中国の前に、イランを潰しにかかるかもしれません。かなり苦労するでしょうが。
それを察知しているのか、イラン政府も長年のライバルであるスンニ派諸国との関係改善に積極的に乗り出しており、まだ100%打ち解けてはいませんが、サウジアラビアやUAEなどとは事実上“一時停戦”状態に持ち込んでいます。
バイデン大統領から罵倒されたサウジアラビア王国のモハメッド・ビン・サルマン皇太子や、米国の上から目線に腹を立てるUAEは、バイデン政権に入ってから急激にアメリカとの距離を取り出し、中東での独自の勢力圏づくりのウルトラCとして、イランとの一時休戦に乗り出したと考えられます。
ここに元々の親中・親ロシアの姿勢が加わって、ウクライナ紛争を前に、世界を分断させる大きな要因になっています。
もちろんアメリカの怖さは重々分かっているので、アメリカ政府の出方を見つつ、明らかに敵対しないことでレッドラインを踏み越えることはないように気を遣っているようですが、ここにも国際情勢の混乱に向けた火種が存在することを意識しておかなくてはなりません。
特に日本にとっては、重要なエネルギー源の供給元ですし、この地域での混乱は即座に日本のエネルギー安全保障に対する危機に直結しますので、中東への気配りはとても重要になります(そしてこれゆえに、新生サハリンIとIIに日本が参画し続けなくてはいけない事情と戦略も理解できると思います)。
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