別の言い方をすると、マインドコントロールにより「困惑」のない心理状況にしたうえで寄付するよう誘った場合は、禁止行為にあたらない恐れがあるということになってしまう。
勧誘するさいは、当然のことながら、どの法人にどんな使途で寄付するのか誤認しないようにするべきである。ところが、新法ではこれを「配慮義務」とし、違反した場合でも勧告や法人名の公表どまりになっている。しかも、そのペナルティにも「個人の権利保護に著しい支障が生じている」など、厳しい要件がつけられ、よほどでないと適用されないようになっている。
なぜ法人名や寄付金の使途を明らかにしないのを「禁止行為」に含めないのか疑問だ。禁止行為だと、内閣総理大臣が行為の停止を勧告し、応じないときは、停止を命令することができる。命令違反には罰則があるのだ。
借り入れ、もしくは生活の維持に欠かせない事業のための土地・建物の売却によって寄付の資金を調達するよう要求してはならないという禁止項目もある。しかしこれも、不動産そのものの寄付を禁じていないのは抜け道となりうる。統一教会では実際に不動産そのものを寄付させた事例があるのだ。こんなにハードルが高いと、ほとんどの被害者は救済されず、教団もさして困らないのではないか。
宗教二世の被害救済にも不備がある。二世問題の多くは、親が財産のほとんどを献金し家庭が貧困に陥ってしまうことから起きるため、新法では、子や配偶者が寄付の取り消しや、返還請求ができるとしている。民法上、子は親権者に対して養育費を請求できるからだが、未成年の場合には、親権者である親の同意が得られなければ申し立てできないという矛盾がある。
元2世信者 小川さゆりさん(仮名)は語る。
「今回の法案の最大の積み残し課題は子どもの被害が現実的には全く救済できないことです。二世は声をあげることができない。来年の国会で宗教的な児童虐待を防止する法案を与野党で協力して成立させるようにお願いしたいです」
小川さんは、家族全員が信仰しなければ地獄に堕ちるという教えにより信仰を強制させられてきた。二世への人権侵害問題を解決する道筋は、新法が成立しても全く見えない。
野党側が求めていた「マインドコントロール下にある人への勧誘の禁止」は結局、盛り込まれなかった。それでも、今国会での成立を重視し、付則に「施行後3年をめどに内容を見直す」とあったのを「2年」に修正することで、与党側と折り合った。
この間、宗教団体は表向き、沈黙を続けた。創価学会への波及を恐れる公明党も「政治と宗教一般ではなく、明確に区別して議論を進めることが大切だ」(山口公明党代表)と言うていどだった。
しかし、「宗教一般ではなく、明確に区別して」という発言でも分かるように、下手にここで動いて、統一教会と同一視されたくないというハラが透けて見える。
「マインドコントロール」の規定を自公側が拒否したのは、宗教には多かれ少なかれ、他人の心理を気付かれないよう操作して都合のいい方向へ誘導する側面があるからだろう。
高額献金は創価学会にとっても無縁ではない。宗教学者の島田裕巳氏はABEMATVの番組で次のように語った。
「統一教会に限らず、色々な団体で高額なお金を出す例はある。私の知り合いで創価学会に一家で8,000万円献金したという方もいる」
公明党はもちろん、宗教団体の票をあてにする自民党議員も水面下で、被害者救済法の骨抜きに動いたことは想像に難くない。
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