興味を持っている対象に「しっくりくる名前をつける」ことの難しさについて

 

この疑問に、イノセントに「はい、しています」と頷けるならば話はもっと簡単だったに違いない。何かしらのパラフレーズを思いつき、それで手を打てていた可能性もある。でも、実際はそうではない。素直に頷くことは難しい。

だからどれだけ別の言葉で言い換えようとしても「なんかちょっと違うよな」という気分が消えないのだ。それは「知的生産」という言葉の言い換えがうまくいっていなからではない。そうではなく、そもそも「知的生産」でいいのかを考えていないからだ。

しかしながら、どうにもそうした疑義を提出するのは気が引けるような雰囲気が私の中にはある。先達の仕事を軽んじているような、そんな冒涜感すらもある。

しかし、冷静に考えて、私は梅棹に師事していたわけでもないし、私淑しているつもりもない。たいへん立派な仕事をされた方だなと尊敬はしているが、それ以上の深いコミットは存在しないのだ。

だから私は一度ゼロ地点に立ち返って考え直すべきなのだろう。私が興味を持ち、日々行っていることははたして何と呼べるのだろうか、と。これまで有用に使われていた言葉から距離を置くのは、まるで冬場に革ジャンを捨て去るくらいの震えを感じるが、それでも「自分の仕事」を始めるためにはどうしても避けられないように思う。

■行為とそのための技術

さて、ゼロ地点から考えるとすれば、こうした分野に興味をもった原風景まで立ち返るべきだろうが、まずは基本的なことを確認しておきたい。それは「知的生産の技術」という言葉である。

冒頭にも述べたが、私は「知的生産の技術」に興味があるとははっきり言える。「知的生産」を目指して活動を行っているとは言えないが、その技術には興味があるのだ。この二つの乖離がポイントになるだろう。

「知的生産の技術」とは「知的生産活動のために有用な技術」ということであり、私が興味を持っているのはその技術の方だ。極端なことをいえば、その活動が「知的生産」と呼ばれる何かでなくても構わない。言い換えれば、「知的生産の技術」が有用な領域は、知的生産以外にも広がっている。そういう感覚がある。

だから言葉の言い換えを探すならば「知的生産」をパラフレーズしてからその後に「の技術」をつけるのではなく「知的生産の技術」(知的生産のための技術)」を直接パラフレーズした方がいいだろう。

で、私が興味を持っているそうした技術は何の技術なのかといえば「情報の技術」だと言える。もう少しだけ詳細にすれば「情報を扱う技術」だ。

知的生産の技術は、たしかに情報を扱う技術である。しかし、「知的生産」は「情報を扱う」とはパラフレーズできない。それではあまりにも誤差が大きすぎる。そう。ここなのだ──(メルマガ『Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~』2023年2月20日号より一部抜粋)

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1980年生まれ。関西在住。ブロガー&文筆業。コンビニアドバイザー。2010年8月『Evernote「超」仕事術』執筆。2011年2月『Evernote「超」知的生産術』執筆。2011年5月『Facebook×Twitterで実践するセルフブランディング』執筆。2011年9月『クラウド時代のハイブリッド手帳術』執筆。2012年3月『シゴタノ!手帳術』執筆。2012年6月『Evernoteとアナログノートによる ハイブリッド発想術』執筆。2013年3月『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』執筆。2013年12月『KDPではじめる セルフパブリッシング』執筆。2014年4月『BizArts』執筆。2014年5月『アリスの物語』執筆。2016年2月『ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由』執筆。

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