陳 「そう。簡単に教えられるものじゃない。それに持って生まれたものって人間必ずあると思うの。僕が親に感謝しているのは、初対面の人でも気兼ねすることなく笑顔でペラペラ喋れちゃう性格に産んでくれたことかな」
中嶋 「その点、陳さんのサービス精神はさすがですよ」
陳 「僕の考え方は単純で、料理人イコールサービスマン。料理人よ、サービスマンたれと。だからうちの店では、ご存じのとおり、お客さんがいつでも調理場の見学ができる。そうすと皆が笑顔で迎えるでしょう。
見られることで弟子たちも成長する。料理人だからって料理をつくっているだけじゃダメ。うちはディズニーランドを目指しているんだから。
ただ、職人の中にはそういうのが嫌いなのもいる。すごい技術を持っているけど、黙って集中するとか笑顔が出ないとか。僕はね、そういう職人はそっとしておくの。だってできないものは、できないんだから」
中嶋 「カウンターでお客さんのお相手をしながらつくれるのもいれば、調理中に声を掛けられても、いまこっちに集中しているから勘弁してくださいっていうのもいる。これはもう向き不向き」
陳 「しょうがないよね。それはその人間が良い悪いという問題とは違うからね」
中嶋 「料理人もタイプはいろいろいるけど、いい料理人というのは、どれだけ愛情を持てるかですよ。お客さん思い、料理思い、それから後進思い。この三拍子が揃っていれば文句なしじゃないかな」
陳 「よく料理人として一流になりたいって言うじゃない。僕はそういう意識は全然なくて、それよりもきょうお店に来てくれたお客さんに喜んで帰ってもらうために全力を尽くすだけ。
あとはもう他人が評価してくれることだから、自分でどうこう言うもんじゃない」
中嶋 「食べ手が10人いれば、つくり手も10人いる世界だから、最後は好みの問題ですね」
陳 「そう。料理の世界は嗜好の世界だから」
※本記事は『致知』2017年4月号 特集「繁栄の法則」より一部抜粋したものです
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