中国とロシアを引き離せ。ウクライナ戦争「停戦」に必要な3つの条件

 

西側より習近平=プーチンの停戦論の方が「正義」なのか

では、G7についてはどうかというと、まずバイデンですが、ウクライナ支援を続けることで、政治的な求心力を維持しようという考え方は、相当に強いと言えるでしょう。米国の国内政治としては、まず共和党は分裂しています。主流派(穏健派)として、ブッシュ以来の「軍事タカ派」を継承し、更に故マケインの流れも汲むニッキー・ヘイリー元国連大使は「徹底抗戦論」ですが、トランプとデサンティスは孤立主義の立場から「ウクライナ支援のカット」を主張しています。

一方で、民主党の方は左派(AOCなど)の本音は反戦論ですが、その左派としても、自由と民主主義を守るという「リベラルホーク(リベラルなタカ派)」の大義に反対はできないので、とりあえずウクライナ徹底支援ということで、まとまっています。反対に、経済政策、特に昨今の状況下では、民主党左派は「銀行の公的資金による救済」には反対しており、こちらが党内の論争になってしまうと、党はバラバラになってしまいます。そんな中では、ウクライナ戦争への連帯と支援ということで求心力を保つ作戦は止められません。

英国のスヌク政権も、今回のSVB破綻に際して、その英国法人の破綻を回避するのにギリギリの綱渡りをしたり、またクレディ・スイスの問題でも大きな影響があった中では、少しでも政治的求心力を高めておきたいところです。今回の「劣化ウラン弾供与」という、かなり危ない判断についても、国内的な事情、ずばり政権維持のためのパフォーマンスという意味合いが強いと思われます。

では、西側には戦争継続を願う不純な動機があり、中ロの側にあるのは現実的な停戦の模索であるから、西側より習近平=プーチンの現実的な停戦論の方が「正義」であると言えるかというと、これは全く不可能です。

まずプーチンの側には、あれこれと口実を組み立ててはいるものの、非戦闘員を大量に虐殺しています。また、国際刑事裁判所の逮捕状発行に結びついたウクライナの子どもたちの拉致誘拐など、人道犯罪を100%否定することはできないと思います。また、何よりも先制攻撃をして特に他国の首都を破壊にかかるという行動に踏み切った責任は否定できません。

これに対して、ウクライナの側はロシア領土内の「敵基地攻撃」を自制しているばかりか、ロシア側あるいはベラルーシ側への越境攻撃は徹底して自制しているわけです。戦争の構図としては、ロシアが専制的で、ウクライナが自由と民主主義の陣営というだけでなく、先制攻撃で戦争状態を作ったこと、越境攻撃を行っていること、非戦闘員の殺害を行っていること、以上の3点に踏み込んでいるロシアと、防戦から失陥領土の回復を目指すウクライナの非対称性は明らかです。

ですから、仮にロシアの有利な戦況となった瞬間を凍結するような不公平な和平が実現してしまうということは、単にウクライナの未来、そして両陣営の力関係に影響するというだけでなく、戦争という本来的には国連憲章(イコール国際法)で禁じられている行為について「ヤッた者の勝ち」という悪例を残すことになってしまいます。

例えばですが、今回のベラルーシに対する核兵器配備の「匂わせ」については、英国によるウクライナへの「劣化ウラン弾」提供への報復といったニュアンスを込めてはいます。ですが、本当に配備を許せば、NPT(核拡散防止条約)体制への重大な挑戦になります。

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