中国とロシアを引き離せ。ウクライナ戦争「停戦」に必要な3つの条件

 

習近平をプーチンのカードにさせない。停戦に必要な3つの条件

では、西側としては「どんな休戦」を期待しているのか、あるいは受け入れ可能なのかというと、実はハッキリしていません。本音としてはプーチン個人を許すわけには行かないので、彼の身柄を差し出させて、それこそハーグで裁いてミロシェビッチのように終身刑にして獄死させたいのだと思います。別に報復感情に流されてというのではなく、そうでなければ国際法の体系が維持できないし、そうでなくては国際社会における安全の保障ができないと感じられるからです。

ですから、仮に、何の根回しもなく、現状の延長での和平に合意してしまうようでは、西側のリーダーは選挙の洗礼をクリアすることはできないでしょう。

その一方で、では西側の望むような「プーチンの身柄」をロシアが差し出すというストーリーが成立するには、これは大きなハードルがあります。常識的に考えれば「西側の越境攻撃によるモスクワ陥落」もしくは「ロシアにおける反プーチン政変」が必要です。前者は第三次大戦を意味しますし、後者は軍を巻き込んだクーデターが必要で、これも現実的ではありません。

非常に難しい複雑な連立方程式がここにはあります。

つまり、西側世論の納得するような「国際法違反を懲罰することで、国際法の有効性を維持」する一方で、ロシアの納得する条件での停戦という「解」を見つけなくてはいけません。

そのためには3つの条件が必要になります。

1つは、戦争犯罪人の特定です。百歩譲って、プーチンを免罪もしくは不起訴にする場合も考慮する必要があります。少なくともブチャの一件と、児童の拉致に関して、また多くの民間施設やインフラを狙った攻撃に関して、特定の実行犯を差し出させるというディールが必要です。プーチンの円満引退というカードも検討の余地があります。許す、許さないという問題はあるのですが、相手が呑めない条件では合意は不可能だからです。

2つ目は、休戦時点での国境策定です。日本や中国の戦国時代でもあるまいし、双方の人命を蹂躙して得た占領地をそのまま国境として確定させる、そのためにも流血を続けるというのは全く認められない話です。どこかの時点で、誰かが調停することで、何らかの国境(または勢力範囲)をとりあえず決めないと停戦はできません。クリミアについては、併合前、戦争前の状況、現時点の中のどのラインにするのか、ドンバスの場合はどうか、狭義のドンバスに入らないであろうマリウポリをどうするのか、など、幅広いバリエーションの中から合意点を見つけるのは、途方も無い作業になりますが、やり切らなくてはなりません。

3点目として重要なのは、中国とロシアを引き離すことです。日本でも、そしてアメリカでもそうですが、無力な政治家は、敵味方の区別を明確にして、敵を叩き、自分が勇ましい敵意の中心に立つことで、集票しようとします。そのような政治家は、中ロがガッチリ組んでいることが、敵意の対象を大きくし、確定するので有利になると考えがちです。何よりも、敵をハッキリしたいという感情論に迎合し煽ろうというわけです。

ですが、中ロが結束している中では、戦争犯罪の告発にしても、国境の確定にしても、非常に難しいと思います。ここは、中ロを離反させる、あるいは習近平をプーチンのカードにさせないという戦略が必要です。これは外交的には非常に難しいことですが、この条件はほぼディールが成立するかどうかの、最後の詰めの部分で非常に重要になってきます。

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