WBC優勝でも競技存続の危機か。激減する日本小中学生の野球人口

2023.03.31
 

WBC人気という「神風」に頼らない。球界がまずすべきこと

深刻な「野球人口の減少」の背景に「少子化問題」があるのはいうまでもない。日本の合計特殊出生率は下落を続け、2021年は1.30人である。22年の日本の出生数は80万人を割り込んだとみられる。国家として危機的な状況といえる。

岸田文雄内閣は、こうした状況を「異次元」の施策で一挙に解決するという。その施策が仮に効果的なものだとしても、「野球人口」が増加に転じるのには10~15年はかかるだろう。

また、前述の小中学生の野球人口の減少は、実は「少子化の7~8倍」というスピードでの急減だという指摘がある。

かつてのような、子どもがみんな野球をやるという時代ではない。サッカー、テニス、バスケットなど、子どもの選択肢が増えている。そして、男子の場合サッカーが人気だ。

都会では、郊外でないと、野球をやれる広大なグラウンドがない。ボール1つで練習できるサッカーと比べると、野球をやる環境を確保することの難しさは明らかだ。

WBCは高視聴率だったが、プロ野球はかつてのように地上波で放送することは亡くなった。野球選手は、我々の時代の長嶋茂雄選手、王貞治選手のような、子どもにとって日常的な親しみのある存在ではないのだ。

要するに、WBCで野球人気が一時的に盛り上がったとしても、それを本格的な野球人口の増加につなげるのは難しいということだ。

球界がまずやるべきことは、WBC人気という、ある種の「神風」に頼ることではない。それ以前にやるべきは、現在野球をやっている約40万人の子どもたちを大切に育てることではないか。

私は昨年8月、夏の甲子園に地元の高校が出場したので、約30年ぶりに観戦した。レフトスタンドに座って地味との高校の試合を含む4試合を観戦したのだが、出場校の応援団が陣取るアルプススタンドを見て、気になったことがあった。

どの出場校も、約30~50人のユニフォームを着た生徒がいた。メガフォンを叩き、踊りながら大きな声で応援していた彼らは、ベンチに入れない野球部員であった。彼らのことは、様々なメディアが「試合に出られなくても、下積みを積んで、素晴らしい人生経験をした」と賛美している。

だが、私はそれには違和感がある。前述の通り、甲子園を目指す一部の強豪校を除けば、地方の公立校な度では部員が10人台、いつ単独チームで試合ができなくなるかわからない状態だからだ。

ベンチに入れず、3年間の高校時代、球拾いや下働きに終始する強豪校の野球部員。それを「素晴らしい人生経験」で済ませていいのだろうか。彼らは、中学の頃には、野球エリートだった。競争の激しい強豪校ではベンチに入れなくても、公立校ならばレギュラーで出場できる実力があるはずだ。

なにより、強豪校には約30~50人のベンチに入れない部員がいて、公立校は部員不足に悩んでいるというのは、いびつな構造だと言っても過言ではないのではないか。野球人口が激減している現状で、このいびつな構造を美談「美談」とする余裕はないはずだ。

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