問題は「プーチンが犯人か否か」じゃない。ダム決壊を政治利用する“バカども”に覚える吐き気を催すほどの怒り

 

ウクライナ・ロシア両国に見られるダム決壊を利用する動き

そしてアメリカとイギリスがほぼ同時に発表した衛星写真をもとにした分析では、当該ダムの一部が6月2日の段階ですでに破壊されており、決壊の予兆が鮮明に見えていたにも関わらず、その時点では何の対策も講じられなかったという状況が伝えられています。

ダム決壊時に“爆発音”を聞いたという住民が多いため、「誰かが爆破した」という見解が、戦時中ということもあり、広まっていますが、もしかしたら、6月2日の破壊・破損の理由が何であったにせよ、6日の日に水圧に耐えられなくなって決壊し、その際の破壊が爆発音に類似していたのではないかという指摘も多く聞かれます。

ただ、ロシアによる仕業なのか、ウクライナによる仕業なのかは関係なく、ロシアによる占領地も、ウクライナ支配地域も、例外なく甚大な被害に直面し、市民生活を完全に破壊し尽くしています。

UN-OCHAやUNHCRからの情報では「被災地に居住する数十万人が飲料水を与えられないまま放置されている」という悲惨な状況が明らかになってきていますし、人々が絶望の淵に追いやられている様子も伝わってきています。

6月8日時点での国連系の専門機関の見立てでは、世界の穀倉地帯としての当該地域の復興については、今後十数年は期待できず、約1年半戦争状態にあるという理由に加え、今回のダムの決壊と一帯の水没によって、農産物の生産能力を期待することはできないだろうとのことで、これは確実に世界経済に対するショック、そして穀物のサプライチェーンへの打撃と、食糧安全保障に対する危機を引き起こすことに繋がるとされています。

このような悲劇的な状況に際し、私自身が吐き気を催すほど怒り心頭なのが、どうもウクライナ・ロシア双方とも、今回のダムの決壊と人道的な悲劇を利用しようとしているように見えることです。

その目的は一体何なのでしょうか?

「一般国民に戦意を喪失させるためのトドメ」

「ヘルソン州を諦めよ、というメッセージ」(これはロシア・ウクライナ双方)

「ここ(ヘルソン州の悲劇)に“敵”(NATOを含む)の注意を引き付けておき、その間に他のターゲットへの攻撃を激化させる」

「支援という名目で、外国からの支援をスピードアップさせ、規模も大幅に増加させる」

いろいろな見解が出てきますが、個人的にはそのどれも当たりであってほしくはありません。

そんな中、災害と一般市民の悲劇に追い打ちをかけるように、ウクライナによる対ロ反転攻勢は本格化し、それに呼応するかのようにロシア側の攻撃もレベルアップして、戦争の激化が進んでいます。

ここ16か月ほどの間、晒されてきた「どちらが優勢か・劣勢か」という情報も、「どちらが相手の何かを破壊した」という情報も、正直どうでもいいと感じています。

皆さんもお感じの通り、戦時に流される情報、特に戦果については必ず内容は誇張されており、自陣に対しては戦意を奮い立たせ、相手陣に対しては戦意の喪失を狙ったものです。

しかし、この情報が溢れ、即座に現場からの情報が映像のかたちで配信される現在においては、その誇張された内容の真偽と誇張度合いはすぐにバレるはずですが、私たちの“こうに違いない”という一種の思い込みを強める確証バイアスに阻まれ、操作されがちになってしまいます。

その結果、今回の戦争の長期化がほぼ確実になり、それはさらなる苦難と悲劇を一般市民に強いることに繋がってしまいます。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

print
いま読まれてます

  • 問題は「プーチンが犯人か否か」じゃない。ダム決壊を政治利用する“バカども”に覚える吐き気を催すほどの怒り
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け