問題は「プーチンが犯人か否か」じゃない。ダム決壊を政治利用する“バカども”に覚える吐き気を催すほどの怒り

 

国際調査委員会の設置を提案したエルドアンの狙い

欧州各国やNATOが動き出すのと並行して、再度、ロシアとウクライナの間の停戦仲介に登板しようとしているのが、最近、再選されたトルコのエルドアン大統領です。

NATOの加盟国でありながら、ロシア製のS400ミサイルを配備し、かつロシアとウクライナ双方とのパイプを持つという独特の立ち位置を持つのがトルコのエルドアン大統領ですが、ダムの決壊の次の日、6月7日にはプーチン大統領・ゼレンスキー大統領それぞれと電話会談を行っています。

そこで【ロシア、ウクライナ、トルコ、そして国連などの専門家によるダムの決壊に対する国際調査委員会の設置】を提案し、両国の支持と同意を取り付けようとしています。

ロシア側の返答は知りませんが、様々な情報ソースから聞いたところでは、エルドアン大統領はプーチン大統領に対して「今回の事案では、疑いの余地がない形で包括的な調査を行うことがとても重要である」と迫り、調査委員会の設置に賛成させたようです。

ウクライナのゼレンスキー大統領については、ダム決壊による被害が拡大する中、NATOや欧米諸国、その仲間たちからの支援が一向に届かないことに苛立ちと戸惑いを感じているところに、まさに渡りに船のようにエルドアン大統領からの電話と提案があったことを喜んでおり、「ロシアの仕業であり断じて許せない」という姿勢は崩せないものの、国際調査委員会への参加については、close to yesだったそうです。

エルドアン大統領にとっては、自らの存在感を再度、国内外にアピールできたかと思いますが、そこには多重の狙いが透けて見えます。

1つは、決選投票にまでもつれ込むこととなった国内での支持率の低下に対応するために、見えやすい、でもトルコを戦争に巻き込まない解決策を提示し、国際社会のフロントラインに立っていることをアピールすることで、トルコ国内での支持率改善を狙うという内容です。

2つめは、シリアとの国境地帯で起きた大地震と自らの大統領選への対応に追われている間に、中国・習近平国家主席に主役の座を奪われた“戦争の調停および仲介者”という立ち位置への復帰という狙いです。

ここではエルドアン大統領流の外交戦術が活きてきます。

トルコと中国は決して対立する陣営ではなく、中央アジアでの権益争いでは多少の利害の衝突は見られるようになってきているものの、中国の中東諸国とアフリカにあるトルコ人コミュニティへのアクセスを後押しするwin-winの関係も保っています。

ゆえにロシアとウクライナの仲介という意味では“競合関係”になりそうに思われますが、実際にはcoordinated actions(協調行動)をアレンジしているとのことで、協力して仲介者の役割を演じることにしているようです。

ただ今回のダム決壊に起因する戦争の激化とレベルアップの兆候は、中国とトルコの仲介努力に水を差す行為になりかねないため、トルコのエルドアン大統領がいち早く国際調査委員会の設置という形で行動を取り、直接的な停戦協議の場とはならないにしても、ロシアとウクライナの当事者が何らかの形で直接に対話する場を設けようとしていることが見えてくるかと思います。

参加する“専門家”は各国が自ら選択するという形式ですから、もしかしたら国際調査委員会という場を調停の場としても使えるようにアレンジするかもしれません。

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