しっかりと押さえておくべき「ブカレスト9」の動向
そんな中、当事者ではないものの、がっちりとロシア・ウクライナ戦争にコミットしてしまった各国はさまざまな手を打とうとしているようです。
まずはNATOですが、8日のダム決壊に対する緊急支援会合のみならず、戦争の長期化と、戦火の周辺国への波及に備えて、ロシアの周辺国に位置するNATO加盟国の防衛を優先する“前方防衛”戦略を取ろうとしているようです。
対象国は通称「ブカレスト9」と言われるバルト三国、ポーランド、チェコ共和国、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、そしてスロバキアの9か国で、ロシアによる戦線拡大という非常事態時に即応できるようにNATO部隊と軍備を配置する計画を明らかにしています。
大きな目的は「NATO製の兵器をこれらの国々が即座に使いこなせるように、今のうちに訓練を施すこと」と言われています。
ただ、ここでも武器の拡散とコントロールの不徹底という懸念がさらに広がる懸念がありますし、武器産業のさらなる収入源をつくるだけではないかとの別の見方もできてしまいます。考えすぎでしょうか?
実際に親プーチンの姿勢を取るオルバン首相率いるハンガリーは、NATO加盟国であり、このブカレスト9の一角を占める国ですが、「NATO軍の国内での常駐状況を認めることは、ロシアを過度に刺激することになり、地域の安全保障を逆に脅かすことに繋がる」と不快感を示しているようです。
そしてこのハンガリーですが、トルコと共に、スウェーデンのNATOへの新規加盟をブロックしている国でもあり、対NATO加盟国・対EUに対しての交渉カードとして用いて、ハンガリーに有利な状況を引き出す材料にしようとしているとも理解できます。
その予兆が、ブカレスト9へのNATOのコミットメントの2つ目の理由と表裏一体になっている懸念に現れています。
それはNATO内で根強く残る対ロ温度差への対応です。
アメリカと英国、そしてポーランドとバルト三国は反ロシアの急先鋒で、その分、ウクライナ支援に前のめりになっています。
しかし、NATO中軸であり、かつEUの中軸でもあるフランス、ドイツ、イタリアは、基本的には対ロ包囲網の一部を構成していますが、「プーチン大統領とロシアを過度に刺激し、恥をかかせてはならない」という姿勢を取っており、現時点でロシアに対するいかなる攻撃にも加わらないという意図を持っているようです。
言い換えると、ウクライナによる反転攻勢には加勢するが、これ以上、ロシアを現時点で過度に刺激することには同意しかねるという姿勢ですが、今後の対ロ戦略を、即時対応から中長期的な同盟国に対する予防的な展開という形で描くことで、NATO内にある溝を克服し、一枚岩の体制と意志をもってロシアとの対峙に臨むという狙いです。
すでにフランスのマクロン大統領も「中東欧諸国にロシアの魔の手が伸び、それを私たちが看過することがあってはいけない」と支援を約束していることもあり、ストルテンベルグ事務総長としては、そこに対ロ姿勢の心理的・政治的な溝を埋めるきっかけを見出したのかもしれません。
ブカレスト9の会合は近々、スロバキアで開催されるとの情報がありますが、今後、NATOがどう動くのかを予測するにあたり、その動向をしっかりと見ておく必要があるカと考えます。
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