世界がウクライナを見捨てる日。戦況次第で支援から手を引く米国の裏切り

 

軍幹部同士の協議体の再開にゼロ回答を突き付けた中国

しかし、アメリカ政府側が執拗に“中国共産党にとっての核心的利益”である中国統一と台湾の位置づけ(One China)に対して対決姿勢をとったことを受け、アメリカ政府側が望んでいた軍幹部同士の協議体の再開については、中国政府はゼロ回答を突き付け、外交・安全保障面では張り合う姿勢を強調したと感じます。

会談に同席した外交部の関係者によると、「アメリカ側の態度は、バイデン政権発足後、すぐにアンカレッジで行った米中会談時に、当のブリンケン国務長官とサリバン大統領補佐官によって示された“上から目線の命令調”を思い起こさせた。アメリカサイドは何一つ変わっていないのだ」と感じたそうで、「アメリカは中国側の利害をしっかりと考えることなく、自身の都合の良いシナリオで進めようとしている。その動きにはもうだまされない」と考えているようです。

アメリカ側の意図は、聞くところによると「経済・貿易・台湾をめぐる考え、ロシア・ウクライナ戦争への対応などにおいてはなかなか両国が妥協できる状況にはないが、偶発的な両国間の衝突が起きないためには、少なくとも軍同士で意思疎通が図れるチャンネルを保っておく必要がある」という考えから、米中の軍当局間のダイレクト・チャンネルが必要との認識のようです。

それに対し中国側の考えは「一旦、米中間で“衝突しない”というお墨付きを与えるような枠組みに乗ってしまったら、アメリカが中国の利害を慮るようなことにはつながらず、さらに中国に対して一方的な攻撃と非難を重ねることになる。そのような意図が分かっていて、アメリカが望むシナリオに簡単に乗ることはない」というもので、真っ向から対立しているように見えます。

ゆえに中国政府としては、アメリカが求めた米中の安全保障担当・軍の幹部同士のチャンネルの再開には応じられないとの姿勢を堅持しています。

その姿勢の理由の一つが「ウクライナ問題の解決をめぐる主導権争い」です。それは「ウクライナの戦後復興における利権拡大の動き」(6月21日‐22日にロンドンで開催されているウクライナ復興支援会議への牽制)も含みますが、【どのようにしてロシアとウクライナの戦争を終結させ、その後の新しい現実において自国の利益と力を拡大するか】という争い・競争がすでに激化していることを示しています。

反転攻勢本格化も実情は苦戦のウクライナ軍

ではその“ロシア・ウクライナ戦争の現状”はどうなっているのでしょうか?

先週号でも触れましたが、双方ともに戦果を強調する激しい情報戦が繰り広げられています。

ウクライナ軍曰く「ロシアに不法占拠された集落を8つ奪還し、その勢いは止まらない」「ロシアの地上部隊に対する攻撃に加え、ドローン攻撃で戦車などを無力化している」と主張していますが実際にはどうなのでしょうか?

ウクライナ軍による反転攻勢は確かに本格化し、激化しているようですが、ゼレンスキー大統領が認めているように、そのスピードは想定していたよりもはるかに遅く、苦戦しているのが実情だと考えられます。

そのような分析に至る理由ですが、8つの集落を奪還したと報じている半面、マリウポリなどの主要都市はまだ奪還できずに苦戦しており、ウクライナ東南部のロシア軍に対して効果的な攻撃を加えられていません。

ウクライナサイドの分析を援用すると、ウクライナ軍内でNATOから供与された最新鋭の武器・装備に対する習熟度がまだまだ低く、ゆえにそれらの兵器が持つポテンシャルを活かしきれていない状況下であり、まごついているところにロシアからのピンポイント攻撃が襲い掛かってきているとのことです。

それは実はロシア軍側の戦術の変化によるものと考えられます。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

print
いま読まれてます

  • 世界がウクライナを見捨てる日。戦況次第で支援から手を引く米国の裏切り
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け