プーチンの意思を代弁か。プリゴジン「過激発言」の意図
英国の王立戦略研究所によると、「ウクライナ軍が近く反転攻勢にでる」という情報をかなり前から得ており、ロシア軍は反転攻勢に備えるため、占拠地域からロシア軍の部隊を周辺の主要都市に一旦後退させて、攻撃と防御の態勢を立て直すと同時に、攻撃の仕方もアップグレードしているようです。
これまでに比べて大規模なミサイルおよびドローンによる攻撃を加え、ターゲットをキーウ周辺、リビウ(西部)、東南部などに分散させ、同時攻撃をかけることで確実にインフラを破壊し、補給路を断つ戦術を強化しているようです。
そのような中、“ロシア軍不利”の情報や、“ロシア軍内の分裂”などがワグネルのプリゴジン氏によって主張されていますが、彼のこの情報戦術をそのまま鵜呑みにするのは危険で、実際にはワグネルも、最近、ロシア軍との契約締結に至ったチェチェンの武装勢力も、手ぐすねを引いてウクライナ軍と義勇軍を待ち構えています。
プリゴジン氏の激しい批判は、主にロシア防衛相のショイグ氏やロシア軍の幹部に向いていますが、ロシア内の混乱を演出するという狙いのほかに、プーチン大統領の意思を代弁しているという見方もでき、国内のナショナリストの闘争心に火をつけるという役割を担っているようです(ちなみに、ショイグ国防相などのサイドは、並行して和平協議の機運が生まれた際に、ロシアに有利に働くような工作と準備を担っているようです)。
ウクライナによる反転攻勢は本格化していますが、この戦争は長引く公算が高くなっていると思われます。
アメリカがしかねない「強烈な決断」
ウクライナの戦争継続と、ロシア軍をウクライナから追い出し、侵略の意図を潰すためにはNATO諸国による支援が不可欠になりますが、実際にはどうなのでしょうか?
NATO諸国は継続的な支援を口にするものの、迅速な供与と支援の継続については、二の足を踏んでいる感があります。
反転攻勢に向けて積極的に支援を増大するという政治的な決定を行ってきたNATO諸国ですが、これまでのところその支援も思っていたほどの効果を挙げておらず、国内外からの非難の的になり始めています。
これ以上の国内状況・世論の悪化を懸念し、NATO諸国は、温度差はありますが、総じて様子見の雰囲気が漂い、コミットメントも揺らいでいるように見えてきます。
支援の継続については、実際にはウクライナからの求めに反し、タイムラインをpermanentにせず、“状況を見て判断”に下方修正してきています。この動きは、欧州のNATOメンバーに共通する動きです。
アメリカについては、大統領選が本格化するにつれ、あまり気前のいい支援を継続できない政治的な理由に加え、“中国の動きに備える”という大目的のため、戦力を大幅にウクライナに割くことが出来ない事情が見え隠れします。
ロシア・ウクライナ戦争に対する大盤振る舞いの支援の方針を受けて、これまでのところ兵器産業・軍需産業はどんどん生産を続け、供与することで大盛況ではありますが、忘れてはいけないのは、アメリカが前線にアメリカ軍の兵士を送って、ウクライナのために戦うシチュエーションは想定されていませんし、今後もそれは起こり得ないことです。
現時点では、まだ米連邦議会上下院は、超党派で親ウクライナではありますが、アメリカが対ウクライナ支援の大部分を負担していることと、その継続の可否については、意見が一枚岩とは言えず、特に共和党側は一般的に拡大の一途を辿る支援の傾向に難色を示しています。
また、広島サミット前後で大騒ぎになってきた国内の債務に対する議論と手打ちにおいても、対ウクライナ支援にかかる法律の期限は変わっておらず、現在の大盤振る舞いの支援は8月末までの期限付きであることも忘れてはなりません。
何らかの条件付きで延長され、アメリカによるウクライナ支援は継続するものと考えていますが、これから8月にかけての戦況によっては、手を退くという強烈な決断をしないとも限りません。
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