台湾有事の際にも前線には出てこない米軍
その可能性を感じさせたのが、先述した今週行われたブリンケン国務長官の訪中です。
米中間の協議のチャンネルは再開され、今後の対話継続に向けての機運は出来ていますが、和解に至り、協調関係に戻る見込みは低く、特に来年の米国大統領選挙において、再度トランプ大統領が登板するか、共和党政権になった場合に備え、中国が積極的な変化を控え、様子見になっていることは確かです。
また軍事的な対話チャンネルの再開は、中国サイドからのゼロ回答によって見通しが立たない状況で、米中間およびそれぞれの同盟国を巻き込んだ戦いが、台湾海峡およびその周辺を舞台に繰り広げられることも想定すると、アメリカとしては、台湾有事に備えるための余力を確保しておく必要があり、これ以上、ウクライナに対して支援を拡大する余裕がなくなってくると思われます。
ただ、気を付けておきたいのは、台湾有事が起きた際、グアムや在日米軍基地、もしくは在韓米軍の施設などの“アメリカの基地”が直接中国に攻撃される場合を除き、アメリカ軍が実際に戦闘の前線に加わる可能性は、今回のウクライナ戦争のケースを見ても想像できるように、かなり低くなります。
代わりに今回のウクライナ型のコミットメントが選ばれ、武器弾薬・兵器の供与や支援は行うが(そしてまた軍需産業が潤うが)、戦闘には直接的には参加しないというシナリオが有力になってきます。
同じことは、北朝鮮と中国が絡む朝鮮半島有事でも同じことが起きるでしょう。実際には戦うのは韓国軍と台湾、そして日本の自衛隊で、そこにアメリカが後方支援を加えるというシナリオです。
ちなみに、アメリカ政府内そしてシンクタンクなどの分析では、まだアメリカは中国と軍事的に対峙する準備が出来ておらず、できればしばらくはそれを避けたいと考えているようで、それが中国との軍事的な対話チャンネルの再開要求に繋がっていると言われています。
インドのモディ首相を国賓待遇で迎える米国の思惑
そして、同時に広域アジア太平洋地域におけるプレゼンスを保ち、力の有利を保つために、日韓を仲直りさせ、台湾を取りあえず強化し、そして地域の大国であるインドとの関係改善に注力しています。
その表れが【インド・モディ首相の国賓待遇での訪米】です。
アメリカ議会上下院両方で演説するという待遇を与え、アメリカの主要ビジネスリーダーにも働きかけてインドへの投資をアメリカ政府が後押しするというアレンジもしています。
例えば、イーロン・マスク氏をはじめとするITのリーダーたちとモディ首相との会談の場をサポートし、両者間に存在した障壁の解決にもアメリカ政府が一役買うという至れり尽くせりなおもてなし攻勢をかけているのもその理由です。
今回のモディ首相の訪米の目的は、表向きは米印安全保障協力の強化とされていますが、アメリカ側の実際の狙いは、ロシアと密接な関係を保つインドをこちら側に寄せ、インドに南アやブラジルといったグローバルサウスの核の仲間たちに働きかけを期待し、インドを通じて、グローバルサウスの国々のロシア・中国離れを進めてもらいたいという意図が見えてきます。
ちなみにインドの狙いは、ロシア・中国と、欧米との中心に位置することで(物理的にも、地政学的にも)、インドとその仲間たちの利益を拡大するために、アメリカとその背後にいる仲間たちとの関係維持と強化を狙いつつ、IT技術をはじめとする技術協力のハブとしてインドを位置づけさせ、さらなる経済発展のためのトリガーにしたいとの思いが存在します。
インド政府としては、アメリカや欧州各国が狙うような“中国の勢力拡大に対する防波堤”になるつもりはなく、代わりにアメリカを拡大する中国の脅威に対する防波堤に使いたいと願っているようです。
この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ









