ゼレンスキーの絶望。世界中からウクライナに向けられる「停戦圧力」

 

終戦ではなくあくまで「一時停戦」を求めるアメリカ

アメリカについては、先日もお話ししましたが、来年秋の大統領選挙に向けて、ウクライナへの支援とロシアとの対峙が議論の大きなテーマになっています。民主党側としては、大盤振る舞いでウクライナ支援を行い、他のNATO諸国とは比較にならないほどの規模で軍事支援を実施してきましたが、予想以上に苦戦しており、国内でも「これ以上の支援は…」という声が大きくなってきていることに神経をとがらせているようです。

実際にバーンズCIA長官がキーウ訪問した際に、ゼレンスキー大統領に秋ごろまでには停戦に向けた動きを始めたいというアメリカ政府の意向を伝えていますし、最近はオースティン国防長官が「年末、遅くとも来年春までには反転攻勢で成果を上げ、停戦に向けた協議を本格化する必要がある」と発言しています。

大統領選との兼ね合いで何らかの“成果”をアピールする必要があるという、ウクライナの国内事情とは全く別の次元でのお話しなのですが、日に日にウクライナは最大の後ろ盾であるアメリカ政府からも圧力をかけられるようになってきます。

ただ、アメリカ国内には、軍需産業の大躍進が国内経済を引っ張っているということもあり、戦争が終わってしまうことに後ろ向きな勢力もあり、現在、政府が口にする“停戦”は一時的なものという見方が優勢です。

分けて考える必要のある欧州各国の思惑

では欧州各国はどうでしょうか?ここでは先ほどお話しした中東欧諸国と、フランス・ドイツ・イタリア・英国などの西欧グループ、そしてバルト三国や北欧諸国を分けてみる必要があります。

中東欧諸国とバルト三国については、常に“ロシアの次のターゲット”と言われ、同時にウクライナからの避難民受け入れに絡んで国内での圧力が増大している事情があります。

ロシアにシンパシーが強いハンガリーのオルバン政権は、国内で増大するウクライナからの避難民に対するネガティブイメージを非常に気にし、停戦(または休戦)が成立したら、ウクライナからの避難民を送り返したいという意図があるとのことです。

バルト三国については、プーチン大統領からは“典型的な裏切り者”というレッテルを貼られており、戦況がロシアに有利に傾くようなことがあり、かつウクライナに対するNATOからの支援が滞るような事態になった場合、自国がロシアのターゲットになり得ることを感じていて、それを防ぐには一刻も早く戦況の“凍結”が必要という意見のようです。

同様の思いはポーランドもシェアしており、NATOメンバーではありませんが、ウクライナの隣国モルドバも同様のようです。

北欧については、フィンランドとスウェーデンの加盟をもって、すべての国がNATO陣営に入ることになりますが、核兵器の傘に比較的寛容なスウェーデンの姿勢に比べ、先に加盟を果たしたフィンランドは、ロシアからの侵略の際に孤立することがないようにしたいというのが加盟の最大の理由であり、核の傘というNATOの軍事同盟にある性格に対しては賛同しないという姿勢を取っているという温度差が存在します。現時点で両国ともNATO、特にアメリカの核兵器を国内に配備することは求めておらず、NATOのメンバーになった今も、ロシアに近接または隣接する国として、デリケートなバランスをロシアに対して取ろうとしている姿勢が見えます。その側面からも早期の停戦に向けた動きが望ましいとの見解を持っています。

では、対ウクライナ軍事支援を行っている西欧諸国はどうでしょうか?これらの国々については、アメリカと類似する国内政治事情が背後にありますが、その主な理由は経済的なスランプと物価高と言われています。アメリカに比べると、ロシアとの物理的な距離も近く、北欧や中東欧諸国ほどではないにせよ、直接的な安全保障上の脅威も感じており、一旦、情勢をリセットし、態勢の立て直しを図りたいという意図があります。

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