休戦を唯一可能にする「ゼレンスキーの失脚」
ただこの時の“条件”が大きな問題で、提示されている内容はかなり乖離しており、それぞれの主張の強さに鑑みると、かなり実現は困難だと思われます。
イメージしていただきやすいように例示しますと「朝鮮戦争の休戦協定で定めた北緯38度線のような両陣営の分離線を、今回のケースでどこに引くのか」という問題です。
ウクライナにとっては「2014年のクリミア半島を含むすべてのウクライナ国土の回復」が条件ですから、“独立”当時のウクライナ国境線の確保であり、それはクリミア半島、ウクライナ東南部4州の回復がラインとなります。
ロシアにとっては、クリミアはすでにロシアに編入された(取り戻した)デフォルトのラインであり、今回、編入に“合意”したウクライナの東南部の保持の承認がラインと考えられます。
最近の外野の皆さんが推す内容は、実はロシアの側の要求に近い内容で、休戦時点の状況・現実で凍結することで休戦、可能であれば終戦に持ち込みたいという意見をよく耳にするようになりました。
先日のNATO首脳会議の際に“ウクライナのNATO加盟の是非”が話題に上りましたが、NATO側は「停戦・休戦状態の存在」を条件にして、現時点では加盟協議も時期尚早との結論を出している背景には、先に挙げたような停戦・休戦へのプッシュ・圧力が存在しているようです。
ゆえにゼレンスキー大統領がSNSで表明した“失望(どちらかというと絶望に近い)”に繋がり、ウクライナはNATO各国からの軍事支援を継続的に受けつつも、自国の運命を他国に委ねさせられているという感触を受け、ウクライナ国内でのナショナリスト勢力や親ロシア勢力からの攻撃に晒される現状に絶望していると思われます。
今週、調停グループのメンバーや様々な関係者と話した内容では、「現時点での休戦は、条件の乖離の問題があるため、実質的には実現不可能と言える。ロシア側は侵略した側だが、じわりじわりとウクライナ領を手中に収めていることに変わりはなく、この状況を認めさせることを絶対条件に挙げてくる。または、状態を表す表現を変えて領土の拡大を永久化する狙いを打ち出してくることも考えられる。ウクライナ側はもちろんそれを受け入れることは出来ず、全土回復以外の内容から1ミリでも妥協することがあれば、ゼレンスキー大統領は国内勢力によって追いやられることになる」
「ただ、唯一、休戦が可能になる場合があるとしたら、戦争の結果に関わらず、ゼレンスキー大統領がウクライナ国内で力を失い、ウクライナの中で親ロシア政権が打ち立てられる場合だが、それは例えが悪いが、今のベラルーシとよく似た状態で、実際にウクライナは失われることになる」
「しかし、ゼレンスキー大統領の追放の結果、ウクライナのナショナリスト勢力が実権を握るようなことになったら、この戦争はさらに泥沼化し、血で血を洗うような凄惨な終わりなき戦いに突入することとなるだろう」という見解が“シェア”されました。
ウィーンにおいていろいろな話ができた結果、これまでとは違った見解と分析に触れることが出来たのはとても良かったのですが、非常に複雑に絡み合った困難な問題にどっぷりと首を突っ込むことになってしまい、調停スタンスと内容について、再検討を要することがよくわかりました。
この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ








