ゼレンスキーの絶望。世界中からウクライナに向けられる「停戦圧力」

 

2つしか残されていないウクライナが選択しうるオプション

そのような圧力を受けて、ウクライナはどう動くのでしょうか?

欧米諸国からの停戦に向けてのプレッシャーを感じる中で選択しうるオプションは、実はあまりなく、実質的には反転攻勢のレベルアップとスケジュールの前倒ししかありません。

先のNATO首脳会議でのバイデン米大統領のアメリカによるF16のパイロット飛行訓練への不参加の表明は、これまでにF16の供与と飛行訓練の実施を表明していたオランダや英国のやる気をそぐことにつながり、これによってF16の投入が遅れることになると、戦場における制空権の掌握という戦略は有名無実化することとなります。

反転攻勢を進め、停戦交渉において有利な条件を得るためには、これまで行ってきた無人ドローンによる攻撃やNATO諸国の戦車をはじめとする地上戦力の投入の度合いを高めることが必要になりますが、これではロシアによる精密誘導ミサイルによるインフラへの攻撃を防ぐことは出来ず、戦況の大きな転換は見込めません。

近々アメリカがエイブラハム戦車を供与し、9月には実戦に投入するというお話もありますが、それが結果を好転させるか否かは、ウクライナ兵のエイブラハム戦車の操縦熟練度の度合いと、ロシアによる攻勢の度合いおよび投入される兵器と戦力との微妙なバランスにかかってくることになります。

兵器が一気に最新鋭のものに変わりはじめたロシア

ではロシア側はどうでしょうか?

プリコジン・ワグネルの乱をきっかけに政府内・ロシア軍内の統制が崩れ、プーチン大統領の権力基盤の著しい悪化を印象付けようとする試みはありますが、入ってくる情報や分析からは、正直なところ、よくわかりません。

ただ、投入され、使用される兵器が一気に最新鋭のものに変わりはじめ、これまで以上に精密誘導ミサイルや無人ドローンで多数の都市を同時に攻撃する戦略に変わりだしていることは、いろいろな見解を生み出します。

それは「当初、古く廃棄処分にするほどの兵器を投入するだけでも十分に成果を出すことが出来ると考えていたが、ウクライナの反攻が想定外に強く、またNATOからの最新鋭に近い兵器が投入され始めたことに焦り、ロシアも本当は温存したかった最新鋭の兵器を投入せざるを得ない」という焦りからくる変化なのか。それとも「予定されていた作戦の一環で、ウクライナ侵攻における攻撃のグレードを上げた“だけ”」なのか。

その“答え”は、今後、考えられる落としどころの性質を変えることになります。

相手がなかなか負けないことに苛立ちが募り、かつ厭戦機運が広まってきているのは、ロシア国内もウクライナ国内も同じですし、それらを支える国々も程度の差こそありますが、同じです。

「負けることはできないが、一刻も早くこの戦争を終わらせたい」という想いは共通です。

国際交渉人が定義する停戦・休戦・終戦

ではどのような形式で“戦争を終える”のでしょうか。

停戦(cease fire)なのか?休戦(armistice・truce)なのか?

停戦は一般的に軍が前線に対して「戦闘行為の停止」を命じて攻撃を止めるという段階と定義されており、戦争は終わっていません。「とりあえず一旦戦いを停止して、落としどころを探ろう」と双方が合意することが出来れば、私などの調停人が関わる停戦協議になります。

そこで当事者同士(政府や組織)が停戦に合意し、戦闘状態を一旦終わらせるのが休戦と定義できます。ちなみにまだ休戦の段階では戦争は終わっておらず、いつ何時、戦争が再開されるか分かりません。実例では、1953年7月27日に休戦協定が結ばれた朝鮮戦争があり、協定では北緯38度線で両軍が対峙したまま、現在に至るまで完全な和平には至らず、終戦の時を迎えていません。

そして当事者間(今回の場合は、ロシアとウクライナ)が、平和条約を締結することで戦争を公式に終結させ、国交を回復することが終戦と定義でき、将来にわたる相互侵略を禁じる不戦条約を含むことも多くあります。

この3つの状態は、実際には曖昧な形で表現されることが多いように思いますが、個人的にはこのように定義して、実際の調停に臨んでいます。

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