国際世論におけるイスラエルの孤立を狙ったハマス
一つ目は【ハマスから“国際社会”への警鐘】という理由です。
これはすでに先ほど触れましたが、イスラエル建国後、入植地に対してイスラエル人が入ってきて、空き地に家を建てたり、ひどい場合には「ここはユダヤ教の教典の中で神が私たちに与えた土地だ」と一方的に主張し、パレスチナ人を家から追い出し乗っ取ってしまうという行為に出たりして、欧米からの支援と黙認の下、どんどん支配地を拡大し、その分、パレスチナ人を追いやり、閉じ込めるという政策が進められてきました。
今回、ハマスが一般市民と外国人を人質に取り、近日中には行われるとされるイスラエルによる総攻撃に対する人間の盾として用いることは、極悪非道で言語道断であると考えますが、見方を少し変えると、今、イスラエルがガザへの総攻撃を宣言し、ガザの市民が囲いの外に逃げることを許さないという矛盾に満ちた措置は、まさにガザに住む120万人の人たちを人質に取っているというようにも見ることが出来ます。
ガザの窮状とイスラエルによる怒りに任せた行動は、アメリカという例外を除き、欧州各国でもその他の地域でも大きな懸念と非難が拡大する原動力になっています。
「世界はロシアによるウクライナへの侵攻と占領に対しては涙し、支援をするのに、パレスチナ人の置かれている窮状からは目を背けている」という先ほどご紹介した認識は、私たちに突き付けられる主張の矛盾に対しての指摘だと考えます。
ハマスが狙ったのは、この国際的な感情の隆起と国際世論におけるイスラエルの孤立だと考えられ、その点では、イスラエルの総攻撃を待たずして、目的は達成されつつあります。もちろん、自らが守るはずのパレスチナ人同胞の生命と引き換えにですが。
ここでイスラエルが本当にガザ地区への総攻撃に乗り出した場合、確実に国際世論はイスラエルに対して非常に厳しいものになるでしょう。
ただ、ここで私たちが勘違いしてはいけないのは、理由はともあれ、ハマスの取った行動は決して支持できない残虐なものであることです。
今後、ハマスはこの“事実”をいかに隠すか印象を薄めるかに力を注がざるを得なくなりますが、その結果は、今後、どれほど反イスラエル感情がアラブ社会とその外に拡大していくかによると考えますが、10月19日現在、それは功を奏していると思われます。
2つめは【アラブおよび世界のイスラム系勢力への蜂起の狼煙としての役割】です。
ガザ地区へのイスラエルによる徹底的な破壊と、病院や学校が爆破され、子供たちが犠牲になる映像が流れるほど、世界各地で反イスラエルデモが過熱します。
すでにニューヨーク、LA、ロンドン、ミュンヘン、クアラルンプールなどでデモが拡大し、ニューヨークでは親イスラエルと反イスラエルのデモがぶつかる事態になっているようですが、このデモ参加者の中に、我々が“過激化イスラム系組織”と呼ぶグループがたくさん混じっていることをご存じでしょうか?
アルカイダ系はこれを機に「欧米諸国の偽善と矛盾を徹底的に指摘し、今こそ世界中で蜂起すること」を訴えていますし、ISに繋がる枝組織の構成員も“世界的なジハード”を声高に叫んでいます(注:本来の“ジハード”は、自身のなまけ心を戒める自省の戦い─精神的なものを指します)。
イスラエルによる超強硬姿勢は、パレスチナ人のためというよりは、別のゴールを掲げる者たちによって目的をすり替えられ、拡大されるきっかけを与えてしまっています。
“テロ組織”については、世界的に監視の目が厳しくなっていますが、一匹狼的(Lone Wolf)に体制への暴力的訴えに出るケースが増える中、完全な阻止は不可能になってきていますので、今後、今回のことをきっかけに眠っていた狼たちが目覚めて攻撃したり、社会に対して不満を抱いたりしている者が、社会における混乱を狙って、行動に出るという副作用も拡大する危険性をはらんでいます。
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