中東における影響力をさらに低下させたアメリカ
3つ目は【イスラエルの存在に対する再戦】という目的です。
ガザ、パレスチナ人の中に根強く流れる思いは【イスラエルの建国の際に、自分たちは騙され、財産も権利も奪われた】という記憶です。
その背後にはアメリカがいて、英国がいて…その事実は今も変わらず、欧米諸国におけるガザ支援やパレスチナへの連帯というのは、イスラエルに安定と安全、そして存在を永久にデフォルト化するための虚構だという強い思いです。
それに共鳴するのが、同じくイスラエルによって責められるレバノンのヒズボラであり、シリアであり、ハマスであり、そしてハマスとは緊張関係にありますが、ヨルダン川西岸に位置するパレスチナ自治政府ファタハです。
そしてStand with the Palestineを訴えてきた周辺のアラブ諸国とイランです。
アメリカの横やりによって、イスラエルとサウジアラビアの国交正常化のための協議が急ピッチで行われていたことに対して警鐘を鳴らしたのが今回のハマスの蛮行です。
最近、ウクライナ紛争の裏で、次第に国際社会だけでなく、アラブ社会におけるパレスチナへの関心と共感が薄れていることに危機感を感じ、中東問題の専門家たちの表現を借りると「アラブ社会の雄であるサウジアラビア王国を失ってしまうと(サウジアラビア王国とイスラエルが手を結ぶと)、パレスチナの問題は永久に闇に葬られることになる」という恐れから、このタイミングをハマスが選び、同じくイスラエルの脅威に曝される同胞たちの蜂起を促していると考えられます。
もしハマスの声に呼応するかのようにヒズボラやシリア、ヨルダン川西岸の勢力が同時にイスラエルに攻撃を仕掛けた場合、複数方面に戦端が開かれることになり、イスラエルの安全保障は非常に困難な状況に陥ることになってしまいます。
そしてそこにイランのみならず、周りのアラブ諸国がパレスチナとの同調を叫んでイスラエルを包囲するようなことに発展した場合、これは中東地域のみでは収まらず、国際的な紛争に発展することとなります。
それが分かっているからでしょうか。アメリカのブリンケン国務長官はアラブ諸国を歴訪し、紛争に与しないように訴えかけていますが、その努力はアメリカ軍が2つの空母攻撃群を東地中海に展開するという【Pro-イスラエルの姿勢を明確に示す行動】によって打ち消されるかかなり弱められているように見えます。
そして18日に急遽行われたバイデン大統領のイスラエル訪問において発した「アメリカはイスラエルの味方であり、それは今日も、明日も、そして今後も不変だ」という言葉と、イスラエルに対する軍事支援の約束は、確実にアラブ諸国を遠ざけ、アメリカの中東における影響力をさらに低下させることになっています。
恐らく今回のことをきっかけに失われたアラブ社会におけるアメリカへの信頼は、今後、取り戻されることはないかと思われます。
欧州各国はイスラエルによる報復を黙認しつつ、イスラエルによるガザ包囲は行き過ぎの可能性があると少し距離を置き、同時にガザに対する支援を増額することで何とか欧州に非難と攻撃の矛先が向くことを避けようとしていますが、これも“ガザの人のため”というよりは、“自分たちに火の粉が降りかからないようにするため”であり、そのことは、ウクライナへの対応以降、アラブ諸国にもアジア諸国にもお見通してあることに注意が必要です。
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