漁業・酒造業・生態系…無視される「本当の論点」
2番目の問題は漁業の再建です。勿論、今回の被災を契機に高齢人口の一定数が、温暖な金沢地区や、あるいはもっと大都市圏に移住するということは出てくるでしょう。それを無理強いできないのと同じように、自ら移住する人を止めることはできません。
では、残る人々はどうやって生活を支えて行くのかと言うと、まず輪島塗などの工芸など伝統産業があります。これは職人さん個々の判断になっていくし、そもそも衰退の一途をたどる中で、維持の取り組みはあったし、今後も続くのだと思います。
問題は漁業です。何と言っても、能登半島の主要産業だからです。ところが、この漁業は今回の震災で壊滅的な被害を受けています。まず、北部海岸を中心に異常な海底の隆起により海岸線が一変してしまいました。既存の漁港はほぼ破壊されたと言っていいと思います。これをどのように再建するかという課題があります。
次に漁船の被害です。保険が利くケースもあるかもしれませんが、やはり各漁協の被害は深刻です。東日本における三陸の被災事例も参考に、支援の枠組みが作られると思いますが、とにかく大変な苦労をこれから乗り越えていかねばなりません。
問題は生態系です。特に能登湾だけでなく、広大な富山湾全体の水産資源が、今回の震災で深刻な影響を受けつつあると考えられます。例えばですが、この地域の名物として寒ブリがあります。これは、富山湾で育ったブリが丸々と太っているというのとは違います。
日本海を周遊しているブリが、富山湾の豊富なプランクトンやミネラルを食すことで、この湾内で滞留して肥える、そのようなメカニズムの結果、美味しい寒ブリになるのです。
では、どうして湾内の海水が栄養豊富なのかというと、これは能登半島の入り組んだ自然、特に山が海に迫る中で山から河川を通じて豊富なミネラルが流入するからです。そして、今回の震災でこの小規模河川がかなり破壊されてしまいました。
湾内の水質は最終的には戻るとは思われます。ですが、当面の間は水質に変化を生じて、水産資源にも影響を与える危険が大きいと思われます。漁港の再建、漁船の手当に加えて、資源そのものにも影響が出かねないわけで、震災の影響は多角的に見てゆかねばなりません。
その一方で、水産業はこの地域の主要産業であり、何としても再建しなくてはならないと思います。
漁業に加えて、気になっているのが酒造業です。奥能登は実は酒どころであり、中小の造り酒屋さんが10数軒ありますが、そのほとんど被災しています。こちらも、この地域を代表する産業であり、貴重な生きた文化財と言えるものです。
設備の被災だけでなく、安定した水と米の調達ということでも、もしかしたら数年のブランクを強いられるかもしれません。この能登の酒をどう守っていくのかというのも大きな課題です。
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