能登地震「デマと善意の真実」なぜ保守も左派もSNSで誤解と曲解を重ねたのか?

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「素人ボランティアは迷惑だ」「過疎地の住民は移住させるべきだ」「岸田総理は新年会をハシゴしている場合か」「馳知事はジャイアントスイングしかできないのか」「自衛隊の派遣があまりに遅すぎるのではないか」――いまだ救援活動が続く能登半島地震では、SNS上を様々な意見が駆け巡りました。思わず納得してしまうものから疑問符が付くものまで、あなたはどう受け止めたでしょうか?さまざまな見方がある中で、これらのほどんどが誤解に基づくものであると指摘するのは、メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』著者で、米国在住作家の冷泉彰彦さんです。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2024年1月16日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

能登地震で機能不全に陥ったSNS

今回の能登半島地震に関しては、様々な点で情報流通が上手く行っていないようです。情報の遅れも顕著ならば、誤った理解が広まっているということでも、現代の日本社会としてはかなり珍しい状況になっています。

まずネットを含めたメディアの動きに問題が指摘できます。

ネット時代に突入して以来、震災などの大規模災害においては、ネットによる情報流通をベースにして、様々な議論もネットで展開されてきました。とりわけ、2011年3月の東日本大震災の際には、被災直後からツイッター(現X)による情報流通が膨大なものとなり、電話やTVを上回る存在感を発揮したのは特筆に値すると思います。

実際に、被災した方のSOSがツイッターで流れる、ツイッターを見て避難所で不足している物資を送ることができた、など具体的に「上手く行った」ケースも歴史に残っています。

一方で、勿論、負の側面もありました。例えばですが、3月11日の被災直後に、1995年の阪神淡路の被災者のコメントとして、次のような内容がネットを駆け巡りました。

「千羽鶴はゴミであり不要」

「自分探しのボランティアは迷惑」

「古着の山は屈辱」

実はこの発信者は、その後、関西で地方行政に関与して一時期は首長ををやっていましたが、やはり自身の言動をコントロールすることが苦手であったようで、現在は公職からは離れています。

このような「ダークなメッセージ」は、その後の「被災していない地域」に対して、呪いのような束縛を残しているのは事実だと思います。

そうした「負の側面」もあったにしても、ネットの威力というのは、東日本大震災では歴史的な役割を担っていったように思います。このネットが、今回の能登半島地震では、少なくとも現時点では上手に機能していません。

なぜ「正確な情報」が伝わらなかったのか?

まず、現地からのネットの第一報ということでは、被災が元旦であったことから、例えば地方自治体、教育機関、民間の企業や諸団体が業務体制としてはアイドリング状態であったことが考えられます。

そのために、責任のある人が責任をもって公式アカウントでSOSを出すということが難しかったと思われます。

また、住民の事情としても元日のため、受け取り側のことを考慮してSOS発信を躊躇したとか、それ以前の問題として個々の家庭や集落では、災害の全体像が全くわからないので発信のしようがなかったということも、あると思います。

被災から数日が経過して、被害の全容が漠然と理解され、インフラやライフラインの厳しい状況が分かるようになった時点では、今度は携帯基地局の燃料が切れてしまった地区も多いようです。

発信が求められている時期に、発信ができないという厳しい状態が数日から一週間程度続いたようです。

マスメディアに関しては、何と言っても奥能登を中心にデジタル地上波の中継局が潰れてしまったことが大きいと思います。その結果、一番の被災地にはようやく把握のできた災害の全体像という情報がなかなか伝わらなかったのです。

批判されるべきTV局のモラルハザード

反面、多くのTV局が「被災地ではどうやらTVが映っていないようだ」という確認を前提として、2日から3日には平然と「正月ムード」の番組やCFを流すようになったのは事実で、この辺りの現象は、どう考えてもモラルハザードであり、これに関する検証は必要と思います。

そんな中で、被災の翌日ぐらいから、2011年に始まった「どす黒いメッセージ」が、情報統制という形で流れ出しました。

つまり「混乱した状況ではメディアもボランティアも現場では迷惑」だということで、これが今回は拡大バージョンとなり「被災地に行かない正義」を振りかざした都会のネット民が「善意で行った人」を徹底的に懲らしめる活動に燃えてしまったのです。

筋金入りのネット民はそれでも突撃して情報発信をしていましたが、悲しいのはサラリーマン組織である大手メディアです。結局のことろは、批判されるのが怖くて初動が遅れ、被災の数日後になっても現場からの生の情報発信は限られたままでした。

勿論、数少ない幹線道路がやられていたという問題もあるのですが、少なくとも奥能登にも支局がある石川ローカルの各局を除いて、TVでの情報発信というのは限られてしまったのです。

今でもそうですが、とにかくネットのレベルでも、情報が断片的にしか出てきていません。

特に、被災時、この地域の人口を倍増させていたと思われる帰省客の人々は、数日内で都市圏に戻ってしまい、その後はそもそも「自分の周囲のことを、幅広くネットの世界へ向けて発信する」習慣の薄い方々だけが残っているという状況です。

現在に至るまで、被災の個別の状況も、全体像も正確に伝わっていない、これは今回の震災の大きな問題であると思います。

そう考えると、とにかく正確な情報公開が必要です。半島北部を中心に、交通網がどの程度寸断されているのか、ようやく石川県が詳細な情報をまとめるようになっていますが、まだまだ全国レベルでは伝わっていません。

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