イスラエルの国連非難を後押ししてしまう事態になったUNRWAのスキャンダル
「限定的な報復を、親イラン抵抗組織に対して多重に実施してはどうか」という軍の方針を邪魔しそうな事態が、UNRWAの重大なスキャンダルの発覚です。
UNRWAといえば、パレスチナ人に対する人道支援のハブとなる国連機関で、およそ2万8,000人の職員のうち、大多数をパレスチナ人が占めるユニークな機関で、その活動に対するトップドナーがアメリカと日本、そして続いて欧州各国です。
そのUNRWAで働く190名の職員が、10月7日のハマスによるイスラエル攻撃の手助けをし、イスラエル人をはじめとする280名の人質事件において拉致に加担していたことが調査で明らかになり、国際社会に大きなショックを与えました。
最大のドナー国であるアメリカと日本は即座にUNRWAへの支援を停止し、欧州各国もそれに続く形になり、UNRWAは2月以降の活動資金が底をつく状況に即座に陥るという結果になっています。
グティエレス事務総長は、UNRWAの事務局長が即座に該当する職員を解雇して対応したことを発表し、「ガザへの支援を続けるためにはUNRWAの活動を支援しなくてはならない」と訴えかけていますが、ドナー国の反応は冷たく、今後、ガザへの人道支援の実施に多少なりとも悪影響が及ぶことになってしまいました。
ここで思い出されるのが、イスラエル軍によるガザ地区への空爆で20人ほどのUNRWAの職員が殺害され、国際社会から対イスラエル非難が行われた際、イスラエル軍の報道官が「UNRWAもハマスの一員」と発言して顰蹙を買いましたが、今回の調査により多数のUNRWA職員が実際にはハマスの構成員であったことが明らかになり、皮肉にもイスラエル軍の発表内容の正しさを証明してしまう事態に発展しました。
南アフリカ共和国政府の提訴により、ICJはイスラエルによる過剰防衛と即時停戦の必要性を判決として出したように、イスラエル軍による圧倒的な武力による無差別攻撃の実施は行き過ぎだと言わざるを得ませんが、今回のUNRWAのスキャンダルは、国連によるコミットメントの限界を露呈し、イスラエルによる国連非難の内容を後押ししてしまう事態になったと思われます。
カダイブ・ヒズボラによる米軍拠点の攻撃という事件と、今回のUNRWAのスキャンダルの露呈は、戦闘停止・一時停戦・人質の即時解放を目指して行ってきたすべての外交努力を無駄にし、エジプトやカタールによる仲介の労も水泡と化すような重大な事件だと考えます。
そのような中、イスラエル国内の世論にも変化の兆しが見えます。
「ネタニエフ首相は遅かれ早かれ退陣しなくてはならない」という見解はコンセンサスとも言える意見の一致を見ていますが、「いつまでに退陣すべきか」については一致せず、その結果が、イスラエル軍によるハマス壊滅作戦への支持度合いに反映されています。
「人質の即時解放が最優先」という意見も全会一致のものと言えますが、「ハマスを壊滅するための軍事作戦の継続」への支持率が上がり、中でも「これを機にハマスを徹底的に潰さないといけない」という意見や「イスラエル国民の安寧のためにはテロの目を排除すべきで、そのための軍事作戦ならば支持する」という意見がマジョリティを占める結果になっています。
ICJの判決内容にショックを隠せないイスラエル市民も多く、一層の孤立への懸念と「またユダヤ人は世界で居場所を失うのではないか」という悲観論もある中、「ICJ判決は反ユダヤの陰謀」との見方もあり、この点でも意見が分かれているのが分かります。
ただこの点でも共通しているのは「いつか世界はイスラエルに対する誤解を改め、イスラエルに帰ってくる」という信念にも似た思いです。
「やりすぎ感は確かに否めないが、私たちは間違ったことはしていない」という認識では国民は一致しているようで、それゆえに戦闘の継続を支持し、長期化もやむを得ないという理解に繋がっているようです。
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