欧米諸国にとって無視できないイランとトルコの接近
そしてイスラエル政府と国民が避けるべきと考えているのが、イランとの直接的な交戦・戦闘に至るような事態です。
ご存じの通り、長年、イランとイスラエルは相互に地域におけるライバルであり、安全保障上の脅威として互いをみなし、非難を続けてきましたが、どちらも直接的な交戦はそれぞれの終焉を意味することを明確に意識しているため、ある意味、相互抑止力が働いてきたと理解できます。
10月7日のハマスによる襲撃後、何度も親イランのヒズボラやイエメンのフーシー派などによる散発的な攻撃が起こるものの、イランの革命防衛隊が直接的な攻撃に関与することはなく、イスラエルがイランを攻撃することもないため、相互にレッドラインを越えない戦略を保っています。
ただ、そこに不確定要素が加わるとしたら、アメリカによる親イラン勢力への攻撃や親イランの抵抗勢力の幹部暗殺などにより、イラン革命防衛隊が実際に報復攻撃に出て、それが偶発的にイスラエルの国民の安全を脅かすような事態になった場合には、非常にデリケートな安全保障バランスが崩れることを意味します。
イランはすでにそのような状況が起こった場合に備えて多方面への働きかけを強化しています。
例えば、最近、最も顕著なのがトルコとの接近です。イランとトルコはシリア問題をめぐる対立はあるものの、「イスラエルによるガザ攻撃は非人道的であり、即時に停戦が行われなければならない」という共通のスタンスを示しています。
1月24日に開催されたライシ大統領によるトルコ訪問時に行われたエルドアン大統領との首脳会談は、両国の反イスラエルでの歩み寄りを示しており、トルコからイランへの外交・安全保障上の支持の見返りに、イランはトルコにこれまで以上に天然ガス供給(輸出)を増やし、レートも市場価格よりも低い特別待遇を与え、また中国と結んだような戦略的パートナシップを25年にわたって締結するという経済上の結びつきの強化も行っています。
このトルコとのつながりの強化は、実際には広くコーカサス、アラビア半島、北アフリカ、中央アジアなどの広いエリアをカバーするパートナシップの構築に繋がることにもなり、そこにはロシアや中国、スタン系の国々、アゼルバイジャン、そしてロシア発カザフスタン経由でインドに至るユーラシア‐南アジア経済回廊計画にイランも接続されることを暗示しています。
これは欧米諸国にとっては無視できない事態となり、それはまたイスラエルにとっても脅威となりかねません。
それに気づいているのか、ただの自身の立場を際立たせるためだけなのか、アメリカの共和党大統領候補のニッキー・ヘイリー元国連大使は「アメリカの覚悟を示すために革命防衛隊の幹部が海外に出る際にピンポイントで暗殺して脅威を削ぎ、革命防衛隊の戦意を喪失させるための断固たる対応が必要」との考えを公に示す形で、イランが国際社会に及ぼし得る脅威について先制攻撃を仕掛けるべきとの考えを表現しています。
イランカードは今後、これまでの核開発疑惑とはまた違った形で切られ、中東全域から中央アジアに至る地政学上の要所を巡る陣取り合戦において何度も出されることになるでしょう。
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