『北の国から ’87初恋』でも見せた存在感。孤高の俳優が若き新聞記者の心に残した痛烈な一言

 

そんな日々に、土佐源氏の公演前、楽屋で準備している坂本さんから言われたのが、「何もわかってないよ」だった。

おそらく私が何かを分かったように言ったことへの反応だったと思うが、この言葉が強烈で、自分が何を言ったのかは思い出せない。

しかし、坂本さんの言葉は痛烈に心に残った。

何も分かっていないのに、分かったふりをしている自分を自覚していたから、なおさらに心に突き刺さった。

人が表現するという深い行為を追究していた立場からは、メディアで表現することは、わかったふりをしながら情報を粗製乱造していると映ったのだろうと思う。

記事で人や世の中を表現する者として私は無知すぎたのだろう。

だから「何が分からないのか」を知りたかった。

坂本さんの全国各地でのいくつかの土佐源氏に帯同して、取材として坂本さんとしばらく過ごし、共同通信の配信記事として坂本さんと土佐源氏に焦点を当てた企画記事を書いた。

取材の過程で、坂本さんの言葉を具に記録したが、結局「分かった」には近づけなかった。

坂本さんは齢を重ねて目の見えない元博労の年齢に近づき、やっと演じる役柄に近づけるとの話をしていたが、土佐源氏を演じながら、やはり近づくのがやっとの思いがあったのだと想像する。

この話を聞くと、やはりまだまだ未熟な自分を見せられて、嘆息をついてしまう。

坂本さんが大事にしてきた「人を表現する」ことに、私なりのアプローチで極めていきたいと思う。

まだ何も分かっていない。

まだまだ道は続く。

坂本さんのご冥福を心よりお祈りいたします。

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障がいがある方でも学べる環境を提供する「みんなの大学校」学長として、ケアとメディアの融合を考える「ケアメディア」の理論と実践を目指す研究者としての視点で、ジャーナリスティックに社会の現象を考察します。

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