自民党内から「岸田を羽交い締めにしてでも解散させるな」の声。それでも狙う“6月解散総選挙”で手を切る相手、組む相手

 

日本保守党は次期衆院選で議席を獲得できるのか

第5に、作家の百田尚樹が23年9月に結成したばかりの日本保守党が、イスラム研究家の飯山陽(あかり)を擁立し、乙武を4,600票余り上回って4位に入ったのはやや驚きだった。

この陣営の内情に詳しい評論家の古谷経衡によれば、安倍晋三元首相を熱烈に崇拝してきた人たちは、彼の死をきっかけに、百田や有本香を中心とし月刊『HANADA』を事実上の機関誌とする百田派と、上念司、渡瀬裕哉らの反百田派とに分裂しており、日本保守党が岩盤保守勢力全体をまとめきれているわけではないらしい。

ネットだけの人気に限界も…一枚岩ではない日本保守党の将来-岩盤保守の内情【衆院東京15区補選】(Yahoo!ニュース4月29日付)

飯山は2万4,000票余りを得たが、そのうち岩盤保守層の7割を固めたとして1万~1万2,000票。自民候補者が不在だったことでそこから流れてきたのが6,700票程度、残りは無党派から。そのような分析から、古谷は「少なくとも来たる衆院選での日本保守党の議席獲得は難しいであろう」と結論している。

確定した「岸田の顔で選挙をやっても負ける」という見通し

さて、この結果を踏まえて岸田文雄首相は「6月会期末解散→何とか連立で過半数維持→9月自民党総裁選で再選」という、考えうる最善シナリオに突き進むことができるのかどうか。

あらゆる政界常識はNOと結論づけるだろう。この補選結果で、「岸田の顔で選挙をやっても負ける」という見通しがいよいよ確定した。外から論評する者は「70議席くらい減るだろう」「いや、50減あたりで歩留まるんじゃないか」などと面白がって予測するが、現在257名いる自民の衆院議員1人1人にしてみれば、自分が生きるか死ぬかの瀬戸際に追い詰められているわけで、選挙がなければ来年10月まで議員でいられるというのに自ら進んで岸田と心中覚悟の勝負に出ようとする者はいない。「岸田を羽交締めにしてでも解散などやらせない」という声が党内のあちこちから漏れ伝わるのはそのためである。

解散は首相の「専権事項」と言われ、それは憲法第7条に天皇の国事行為の1つとして「天皇は内閣の助言と承認により……衆議院を解散すること」とされているのに基づいて、首相がそのように天皇に「助言」すれば可能だという憲法解釈を根拠としているが、これはどう考えても詭弁的な捻じ曲げで、天皇の政治的悪用に当たる。そのため、自民党内でもこの「7条解散」を不当とする考え方が根強く存在する。

それでも無理やり強行しようとする場合、「助言」するのは首相1人ではなく「内閣」だから、全閣僚の署名が要る。小泉純一郎が2005年に「郵政解散」に打って出た時には、島村宜伸農水相が最後まで反対したため、彼を罷免して首相が同相を兼任することにして強行突破した。が、1976年に三木武夫が「ロッキード事件解明」を理由に解散しようとした際には何と15人の閣僚が署名を拒否し、頓挫した。あるいは1991年の海部俊樹や2021年の菅義偉の場合は、党内の力関係で事前に解散権を封じられ、総裁選不出馬を表明して退陣に追い込まれた。

岸田が軽々に6月解散に出ようとすれば、そのような目に遭う公算大で、だから常識的にはあり得ない。

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