死文化してしまったストックホルム合意
【資料】
日朝のストックホルム合意(2014年5月)から10年。共同通信が配信した記事をご紹介します。とくに横田滋さん、早紀江さんとめぐみさんの娘キム・ウンギョンさんとのメッセージ交換を仲立ちしていたことのエッセンスを初めて語りました。
「進まぬ拉致問題 ストックホルム合意10年」
平壌宣言の精神に戻れ 一歩ずつでも前進大事 有田芳生
─合意から10年。どのように受け止めるか。
「2014年3月に、拉致被害者横田めぐみさんの両親の滋さん、早紀江さん夫妻と、めぐみさんの娘キム・ウンギョンさん夫妻との面会がモンゴル・ウランバートルで実現した。こうした人道的課題が進んだ環境の下で成立した合意だった。福田政権から民主党の野田政権まで積み上げてきた下地があった。進展を期待したが何も動かず、北朝鮮が核・ミサイル開発にまい進し、安倍政権が圧力を強化する中で死文化してしまった」
─進展する可能性はあっただろうか。
「北朝鮮が用意していた調査報告書を日本が受け取っていれば、可能性はあったのではないか。日本は、受け取った上で内容を徹底的に検証して問題点を突き付け、必要ならば調査のために平壌に連絡事務所を設置するなど、一歩でも二歩でも進めればよかった」
「北朝鮮は合意の際に、拉致被害者の田中実さんと、拉致の疑いが拭えない金田龍光さんに関する生存情報を伝えていたと、当時の外務省幹部が今では認めている。安倍政権は全ての拉致被害者の帰国を掲げていたが、この2人の生存を確認するだけでも、政権にとっては成果だった」
─有田氏はストックホルム合意に関わった。
「民主党政権時代の12年10月に訪朝する前、ウンギョンさん夫妻の結婚記念写真を入手し、横田さん夫妻に渡した。安倍政権になってからも、メッセージを伝え合う動画のやりとりなどを手伝っているうちに、横田さん夫妻から『ウンギョンさんに会いたい』という思いを聞き、夫妻に当時の安倍晋三首相と岸田文雄外相に手紙を書くことを勧めた。安倍首相が『実現させましょう』と快諾し、外務省が動いた。13年10月末から11月のことだ」
「ただ、面会は実現したがその後は一度も会えていない。私は安倍首相に参院予算委員会などで何度も、定期的に面会できるよう取り組みを求めたが、首相が何かすることはなかった」
─ここにきて日朝間に動きが出てきている。
「岸田首相が昨年5月、金正恩朝鮮労働党総書記に、条件を付けずに首脳会談を行いたいと呼びかけ、今年1月には金総書記が元日に発生した能登半島地震に対する首相宛ての見舞いの電報を送った。首脳会談を実現するための水面下接触が進んだからだろう。しかし、妹の金与正党副部長が短期間に、首相の訪朝に言及する談話と交渉を拒否する談話を出した。北朝鮮の権力中枢で何か起きているのか、よく分からない」
─今後、日本はどうすればいいのか。
「報告書があるなら受け取り、『不幸な過去を清算し、懸案事項を解決する』とした日朝平壌宣言にもう一度立ち戻って、具体的な政策実現を進めるしかないのではないか。人道問題の観点から雰囲気をつくっていくことは、ストックホルム合意の教訓だと思う。幼児教育・保育や高校の無償化から朝鮮学校を除外しているのは差別であり、こうした問題を解決する必要もあるだろう」
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