安倍政権の「インド太平洋構想」も暴動の遠因に
協定では、否決された場合でも、さらに2回、住民投票を行うことができると定められていたことから、2018年、そして2020年、2021年のあわせて3回、住民投票が行われた。
投票の結果、1回目、2回目とも独立「反対」が「賛成」を上回りつつも、しかし、その差は縮まっていた。
一方、国連総会は、ニューカレドニアについて、現状は「非自治地域」にあると警鐘を鳴らす(*4)。
ただ、富山大の佐藤幸男名誉教授(国際政治学)によると、ニューカレドニア騒乱の責任は日本にもあるという。佐藤氏は東京新聞の取材に対し、
「(ニューカレドニアの)独立への道が閉ざされたのは、日本にも遠因がある」
と解説(*5)。
安倍晋三政権の「インド太平洋構想」により、ニューカレドニアで日仏合同の軍事訓練が始まり、結果、中国脅威論がニューカレドニア独立を阻むスローガンに使われたという。
日本が主催する「太平洋・島サミット」はニューカレドニアを独立国家と同様に扱ってきたが、佐藤氏は、
「現実的には独立回避の秘策を日仏両政府が合作した」(*6)
とみる。
EVに欠かせないニッケルをめぐる対立も暴動を激化
暴動激化の背景には、電気自動車(EV)に欠かせないニッケルをめぐる動きもあった。
ニューカレドニアは、EVのバッテリーなどに欠かせないニッケルの生産量が、インドネシア、フィリピンに次ぐ、世界第3位。
現在、ニューカレドニアからの輸出額のほとんどをニッケルが占めており、地元の雇用のおよそ25%は、ニッケルに関連した仕事だとも(*7)。
昨年、ニューカレドニアを訪問したフランスのマクロン大統領は、
「ニッケルはニューカレドニアの財産だ」(*8)
だとし、
「強調したいのは、われわれが大規模な再工業化の取り組みを進めている今、ニッケルはフランスと欧州にとって主要な戦略資源でもあるということだ」(*9)
とも述べる。
しかしながらニューカレドニアでは、採算がとれなくなったニッケルの加工工場が停止されるなど、経済や雇用に大きな影響が出てきた(*10)。
暴動の背景には、こうした現地の経済的な苦境や、先住民とヨーロッパからの移住者の間のさまざまな格差に対する不満もある。
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■引用・参考文献
(*1)松田伸子「ニューカレドニアでなぜ暴動?人気のリゾート地で何が?」NHK NEWS WEB 2024年5月24日
(*2)松田伸子 2024年5月24日
(*3)松田伸子 2024年5月24日
(*4)西田直晃「『天国に一番近い島』でくすぶり続ける暴力の連鎖 ニューカレドニアで本国フランスと対立する先住民の苦境」東京新聞 2024年6月2日
(*5)西田直晃 2024年6月2日
(*6)西田直晃 2024年6月2日
(*7)松田伸子 2024年5月24日
(*8)Matthew Dalton 、Sam Schechner「ニューカレドニアの暴動、背景に『ニッケル闘争』」ウォール・ストリート・ジャーナル 2024年5月21日
(*9)Matthew Dalton 、Sam Schechner 2024年5月21日
(*10)松田伸子 2024年5月24日
(『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』2024年6月8日号より一部抜粋・文中一部敬称略)
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