世界のではどのような柔道事故を防ぐ対策が行われているのか?
世界の柔道界では、安全性を重視した様々な取り組みが進められている。
まず、ヨーロッパ柔道連盟(EJU)は、試合中の傷害データを収集し、これに基づいて規則の見直しを行っている。その過程で選手に危険をもたらす可能性のある技や防御方法を禁止し、傷害の発生率や部位、種類を定期的に分析して対策を講じている(*6)。
次に、英国柔道協会(BJA)は、子供たちの安全を確保するためのガイドライン「Safelandings」を策定し、技術的な理由なしに過度な乱取りを行わないことを推奨。また、安全な指導ができるコーチの育成にも力を入れている(*7)。
さらに、オランダでは「IPON」という柔道特有の傷害予防プログラムが開発・運用されています。このプログラムにより、傷害のリスクを低減することを目指す(*8)。
これらの対策の結果、世界の柔道界では安全性向上に向けた取り組みが積極的に行われており、一定の効果が見られている。具体的には、予防プログラムの導入、安全ガイドラインの策定、厳格な安全基準の設定などが重要な役割を果たす。
結果、統計的には有意な傷害減少が示されていないものの、しかしトレーナーや選手からは高く評価されており、国際大会でも低い傷害率を示す。これにより、柔道界における安全性対策が効果を上げていることが分かる。
なぜ日本でだけ柔道事故が繰り返されるのか
なぜ日本だけで重大な柔道事故が繰り返されるのか。
第一に、「柔道は格闘技だから事故が起きやすい」という誤った認識が長年存在しており、安全対策の必要性が軽視されていた可能性がある。
この認識により、事故を「運悪く起こった事故」や「武道だからけがはつきもの」と片付ける傾向にあった(*9)。
また、学校や教育委員会が事故調査を十分に行わず、事故原因の分析が不足していった。これにより、同様の事故が繰り返し発生する要因ともなってきた(*10)。
一方、日本の柔道において、過度に厳しい指導や、安全への配慮不足が指摘されている。特に初心者や体格差のある生徒同士の練習など、リスクの高い状況での適切な配慮が不足していた可能性もある(*11)。
そして、そもそも全日本柔道連盟(全柔連)が本格的に安全対策に取り組み始めたのは比較的最近のこと(*12)。長年、組織的な安全対策が不十分だったことが事故の繰り返しにつながっていた。
日本では柔道が伝統的な武道としてあまりにも重視され、時として安全性よりも技術や精神面の鍛錬を優先させる傾向を生んでいた。
結論として、柔道の安全性を導くためには、柔道の“武道”としての側面を徹底的に排除して、スポーツとしての側面を強調しなければならない。
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■引用・参考文献
(*1)「意識不明だった23歳女性巡査が死亡 『大内刈り』で後頭部強打 京都府警で柔道練習による死者4人目」京都新聞 2024年7月13日
(*2)島沢優子「日本の中高生だけが柔道で亡くなる驚きの実態」東洋経済ONLINE 2020年7月25日
(*3)島沢優子 2020年7月25日
(*4)「Judo Injuries Frequency in Europe’s Top-Level Competitions in the Period 2005-2020」PubMed Central 2021年
(*5)小林恵子「『28年間に中高生114人が死亡』日本の学校柔道で悲惨な事故がなくならない根本原因」PRESIDENT Online 2021年10月27日
(*6)PubMed Central 2021年
(*7)Yuko Shimazawa「Only Japanese children die from judo-related injury: 121 deaths over 28 years while zero in leading judo countries overseas」JJAVA
(*8)「Effectiveness of a judo-specific injury prevention programme: a randomised controlled trial in recreational judo athletes」BMI Joutnal
(*9)島沢優子 2020年7月25日
(*10)小林恵子「柔道事故でこれ以上障害者をつくってはならない 『ノーマライゼーション 障害者の福祉』2015年9月号」障害保健福祉研究情報システム 2015年
(*11)島沢優子 2020年7月25日
(*12)小林恵子 2015年
(『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』2024年7月20日号より一部抜粋・文中一部敬称略)
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