富士山の眺望を巡って、市民から反対運動が起きていたマンションが解体工事を開始したそうです。異例ともいえるこの事態について、今回のメルマガ『まんしょんオタクのマンションこぼれ話』では、一級建築士及びマンション管理士の廣田信子さんが言及しています。
買わなければよかったと思わせる計画はしない
こんにちは! 廣田信子です。
富士山の眺望を遮るとして引き渡しの直前に解体の方針が決まった東京・国立市内のマンションが、解体工事を開始しました。
分譲会社の「積水ハウス」は、「景観に著しい影響があると言わざるを得ず、富士見通りからの眺望を優先するという判断に至りました」とコメントしています。
狭い敷地に10階建て、18戸のペンシル型の分譲マンションです。
部屋の窓からも富士山が望めることをウリにしていましたが、
一方で、通りから見えていた富士山の美しいシルエットは半分近く隠れてしまったのです。
市民からは反対運動も起こり、積水ハウスは完成間近での解体という異例の決断をしたのでした。
私は改めて、この地域が、「近隣商業地域」で、これほどの高さのビルに建て替えられるのだということを認識しました。
それは、この通りの土地所有者に共通のことで、それだけ資産価値も高かったということです。
そして、この事例が、法令上の問題がなくても、富士山が見えるようにということを地域の約束ごとにしていけるのか…ということです。
反対運動をした人たちがこの結果を今後にどう生かしていくか課題も大きいと思います。
積水ハウスの決断には、企業イメージの問題が大きかったのではと思います。
完売には、富士山を半分隠してしまう「あの写真」のインパクトは大きかったです。
15年、傾きが問題となった「パークシティLaLa横浜」を思い出します。
分譲会社は、傾いた棟以外も全棟建替えを決めました。
その費用総額は約400億円に上るといいます。
分譲後の建替えは大変でしたが、すでに新たなマンションになっています。
全棟建替えを決断したことによって、企業のイメージダウンは最小限に止められ、大資本の企業力を見た気がしました。
今回、引き渡しの直前での決断は、積水ハウスにとってイメージダウンを抑えるためにはよかったと思います。
他の計画に大きな影響があると言われますが、今後、こんなマンションを買わなければよかったと後から思わせるような計画はしないということになってほしいと思います。
人口減少はとどまるところを知らず、中古市場の活性化を本気で考えなければならない時代ですから。
解体されたマンションの後に何ができるのかに注目しています。
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