自分が史上最高齢の大統領候補者になってしまったトランプ
第1に、ハリスは59歳である。選挙時に43歳だったJFKや47歳だったオバマと比べれば一回りかそれ以上も上だが、81歳のバイデンより22歳若く、78歳のトランプより19歳若い。そのため、バイデンの老齢化による心身衰弱を笑い物に利用してきたトランプの戦略は崩れ、逆に自分が史上最高齢の大統領候補者になってしまったことを余り知られたくない立場になってしまった。そういう目で見るからかもしれないが、彼が急に老けて見える。
第2に、ハリスは女性である。2016年に民主党の大統領候補となって初めての女性大統領の座に挑戦したのはヒラリー・クリントンだが、僅差でトランプに敗れた(ちなみにその時彼女は69歳)。ヒラリーは誠に有能だと思うが、弁護士から大統領夫人、上院議員、国務長官という文句のつけようがない経歴にはかえってエリート臭が纏わりついた。
それ比べるとハリスは、学者一家に生まれて同じく法律家の道に進んだという意味ではエリートに違いなく、カリフォルニア州で地方検事、同州で初めての女性司法長官を務めた後、16年に上院議員、00年にバイデンの伴走者となった。とはいえ、ヒラリーのような人を見下すかの高慢さとは無縁であるどころか、むしろガハハと笑う笑い方が話題になるほどの庶民的な感じの人柄で、その意味では米国初の女性大統領への距離はヒラリーより近いかもしれない。
若者を中心に巻き起こる「カマラノメノン」という現象
第3に、ハリスはカラードである。しかも、ジャマイカ系黒人の父(スタンフォード大学の名誉教授も務めた経済学者)とインド系の母(乳癌専門の医学者)を持ち、幼い頃から黒人向けキリスト教会とヒンズー教寺院の両方に通ったという、人種的・文化的多様性の象徴のような人物である。
バイデンvsトランプでは「どちらかを選べ」と言われても困ってしまい、棄権する者が多くなることが予想されてきたが、
- 女性層はもちろん「初の女性大統領誕生」という歴史的快挙に加担したいし、
- 民主党から離れがちだった黒人層は一気に戻って来そうな気配だし、
- アジア系やヒスパニック系でも同様のことが起きるだろう。
- また、人種や出身に関わりなく「Z世代」と呼ばれる若者層にはトランプを忌み嫌う人たちが多く、彼らも棄権するくらいならハリスに投票するだろう。
第4に、ハリスはリベラルである。死刑廃止、同性婚や妊娠中絶の権利、銃規制などに積極的に取り組んできた。こうした問題を議論する時のハリスは舌鋒鋭く、議員時代にはしばしば相手をやり込めることがあったという。これらのテーマは特にZ世代の共感を呼びやすい。
こうした要素が相乗することによって、すでに、NYタイムズ8月5日付が見出しに使った言葉を借りれば「カマラノメノン(Kamalanomenon――カマラの名に「現象」=phenomenonを接合した造語だろう)」がすでに起きていて、ハリスの出馬が報じられてから12日間で若者層を中心に37万人の選挙ボランティア登録があり、また7日間で2億ドル(約300億円)の新たな献金が集まった。
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