トランプが大きく誤った副大統領候補の人選
もう1つ、トランプに不利に、ハリスに有利に働くであろう大きな、もしかしたら決定的となるかもしれない要因は、副大統領候補の選び方である。米国の事情にも詳しい元外交官の田中均は、『サンデー毎日』8月18日号で倉重篤郎のインタビューに答えてこう語っている。
「(トランプは)副大統領候補の人選を間違えた。自分と主張が同じ人物を候補にした。本来であれば、副大統領候補は大統領の支持の薄いところ、弱点をカバーできる人を指名するのだが、米国ファースト、MAGA(Make America Great Again)を徹底的に追求しようと思ったのだろう」と。
その通りで、この人選の失敗は早速、その副大統領候補=ヴァンス上院議員の失言事件として破裂した。21年に保守系のFOXテレビに出演した際、ハリスだけでなく民主党左派のオカシオコルテス下院議員、同性愛を公言するブティジェッジ運輸長官を名指して「民主党の将来は子供のいない人々に支配されている」「(ハリスらは)子供がおらず猫だけを可愛がって暮らす寂しい女たち(childless cat ladies)」と口汚く罵倒していて、その映像が発掘されネットに出回った。
日本のチンピラ右翼や安倍チルドレン議員の中にも同様の偏見があるが、言うまでもなく産みたくても産めない事情を抱えるカップルに対する初歩的かつ甚だしい人権侵害で、しかもハリスは結婚相手の2人の連れ子と暮らし、彼らから「ママラ」と呼ばれて仲良くしているし、ブティジェッジの場合もパートナーと共に養子を迎え我が子として育てている。
自分らが直接に子を産む条件に恵まれなくとも、その辛さや悲しみを乗り越えて次の世代を育てることに実の親かそれ以上に情熱を注ぐ人たちは、米国にも世界にも沢山いる。その人たちを馬鹿にするなど、下劣の極みである。
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