トランプ陣営を苛つかせているウォルズが放った一言
ヴァンスは妊娠中絶に関しても完全禁止の極論の持ち主でかつて「レイプや近親相姦による妊娠に関しても中絶を許すべきでないと喚いていた記録が残っている。
トランプは中絶には基本的に反対ではあるが、レイプや近親相姦など女性本人の意思に反する妊娠の場合は例外とするという考え。知ってか知らずか、自分よりさらに極端なことを言い散らす人物を伴走者に選んでしまったわけで、これでは、田中均が言うように、である副大統領が自分の弱点をカバーするどころかその傷をさらに広げてしまうことになる訳で、失敗人事である。
それに比べるとハリスがテイム・ウォルズ=ミネソタ州知事を選んだのは多分成功人事で、上述のように優秀なインテリであるが故にエリート層の一員と見做されかねない彼女の“弱点”をカバーするだろう。ウォルズは、子供らに優しい学校の教員で、州兵やフットボール・チームのコーチなどコミュニティのための奉仕を厭わない「田舎の校長先生」風の安心できるキャラクター――米メディアで「中西部の裏庭でのバーベキューで出会うような男」がカバーすることになるだろう。
しかも、単なる好々爺ではなく、長年の教員生活や下院議員、知事としての政治経験を通じて培われた才覚もなかなかで、脚光を浴びるようになって早々にトランプ=ヴァンスのコンビを「ウィアード(weird)」と表現したのが絶妙な効果を発揮、たちまち流行語となってネット上だけでなくメディアでも飛び交うようになった。
この語は「変な、奇妙な、見たことも聞いたこともない、前代未聞の」などが本義で、さらに拡張的には「不可思議な、神秘的な、恐ろしい、不気味な」といったニュアンスも持つ。
トランプの悪口雑言による攻撃を「脅威」と捉えて気色張って反撃しようとするのでなく、「あの人たちって奇妙で、気味が悪いよね」と受け流してしまうというのは、大人っぽい巧妙な知恵で、ジョージ・ワシントン大学のコミュニケーション論の准教授デビッド・カーブは、
「この言葉は支持者の心に響き、ドランプ陣営は有効な反論を見つけられずにイライラしている。トランプを見て笑おうという、からかいの要素がある。若者がTikTokでシェアするにもちょうどいい」
――と褒める。またニューオリンズ大学の社会学のジェフリー・パーカー准教授は、
「独裁者は、笑われることに対処できない。彼らは変だと思われるより、怖いと思われることを望む。怖さは力だと認識しているからだ」と言う(8月9日付朝日)。
こうした、例えば「ウィアード(weird)」という言葉1つを巡る駆け引きが、大統領選の行方を左右する面白さをこれから秋にかけて楽しもうではありませんか。
(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2024年8月12日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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