北朝鮮が中国に協力を申し出て恩を売っているという見方も
中国政府(習近平体制)にとっては、アジア太平洋地域が最重要地域であり、戦略的に地域での影響力の基盤を固め、拡大することに重点を置いています。中華帝国の再興・拡大が目的ではなく、勢力圏の拡大が重要戦略と言われています。
自国の一部と主張する台湾を確保し、アジア全域における影響力と経済的な利権を確保・拡大することが政治的な最重要戦略であるため、それに横やりを入れられることを嫌って、国際社会の目とリソースを地域外に向けさせる努力をしているものと思われます。
例えば、歴史的な“成果”としてサプライズを与えたイランとサウジアラビア王国の国交回復の仲介や、北京宣言によるOne Palestineの形成の仲介などは、世界の注目をそちらに向けて、自国周辺の情勢への介入を可能な限り避けようとしています。ロシア・ウクライナ問題へのつかず離れずの態度は、ロシアへのシンパシーと遠慮もあるでしょうが、時折、仲介・調停の労を担う準備があることを表明して、国際社会の注目をアジアから離そうとしているとも考えられます。
それに北朝鮮が協力を申し出て恩を売っているという見方も可能ではないかと考えます。
最近、北朝鮮の外務大臣(崔善姫外相)がモスクワを訪れてラブロフ外相と話すというニュースが流れ、「これこそが北朝鮮とロシアの親密さを示すもので警戒すべき」という分析がなされていますが、実は中国の関係者も同時期にモスクワ入りしていますし、また朝鮮労働党の別の幹部が北京を訪問して、王毅外相と協議しているという情報も入ってきています。
“戦争の枢軸”の一角であるイランと北朝鮮の直接的な接触は表に出てきていませんが、実際には過去にイランが北朝鮮に武器の供与を行ったという分析もあれば、相互に核技術に関する情報とノウハウを提供しているという情報もあるため、今、現在、国際情勢の端々で何らかの戦いに直面している4か国は、水面下ではもちろん、様々な接点で協力関係にあると見ることができます。
ロシアはウクライナとの戦争を通じて、アメリカと欧州、そしてその仲間たちと戦い、「ウクライナ問題が決着した後の(親ロの)外交相手の見定め」をしていると考えられます。
中国は、絶対的な利害としての台湾問題への過度な干渉を防止すべく、アメリカとの対立関係を際立たせながら、世界各地でアメリカを苛立たせ、中東やコーカサスで進む戦争をじりじりと長引かせる手助けをすることで、自らの勢力圏を固め、台湾への影響力の拡大も狙っています。
イランは長年の地域ライバルであるイスラエルとの対峙を続け、ヒズボラやフーシー派などを後方支援しつつ、イスラエルの権益に攻撃を加え、中国などの助けも得て、一旦、アラブの周辺国との対峙を棚上げし、緩い連合ではありますが、取り急ぎイスラエル包囲網を築き上げ、その扇のかなめの位置に自国をおいて、イスラエルという国家安全保障上の、そして生存のための脅威を取り除くか軽減するための方策を練っています。
アメリカをはじめとする欧米諸国からの厳しい経済制裁の対象になっていますが、そのロスを中国やロシアに埋めてもらいつつ、国家資本主義的な陣営の拡大に一役買っています。
そして北朝鮮は貧しく困った国というイメージを他国に持たせつつ、実は上手に戦争の枢軸内でのバランサーとしての役割を果たすのみならず、北東アジア地域の非常にデリケートな安定を維持するための調整弁的な位置づけを取ろうとしているように見えてきました。
まさにワイルドカードとも言えるのかもしれませんが、その狙いが的中するかどうかは中ロの意向次第かと思います。
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