従来のシステムを90%以上も上回る精度。Google開発の「気象予測AIモデル」が変える未来の天気予報

 

グラフキャストの予測プロセスは、地球の現在の気象と6時間前の気象データから始まり、まずは6時間後の気象を予測します。その後、これらの予測をモデルにフィードバックし、同じ計算を繰り返して、より長期的な予測を出力していきます。

ディープマインドの研究チームは、グラフキャストの結果を、中期気象予報に使用される「HERS」という数値予報モデルと比較してみました。その結果、1,380回行ったテストの90%以上で、グラフキャストがHRESを有意に上回ったとのことです(指標としてよく使われる上空5,000mの気圧の精度が従来モデルより高い等)。

また、グラフキャストは、熱帯低気圧や異常な気温変化などの異常気象の予測にも能力を発揮し、特別なトレーニングをしたわけでもないのに、驚くほど的中させたと報告しています。

グラフキャストについて、グーグル/ディープマインドは、「気象学者が利用する標準システムと並行して機能するためのものだ」とし、「我々のアプローチは、伝統的な気象予報手法の代わりとなるものではない。むしろ我々の研究は、AIモデルによる気象予測が、従来モデルの課題を解決し、改善できる可能性があることを示す証拠であると解釈されるべきだ」と述べています。

グラフキャストが実運用で使用されるようになるにはまだ時間が掛かるようですが、ECMWF(ヨーロッパ中期予報センター、European Centre for Medium-Range Weather Forecasts)が中期気象予報にAIを本格活用する際などに採用されるモデルの有力な候補になり得ると思います。

今回、このニュースを取り上げた理由は、私が以前にウェザーニューズという気象情報会社の社外取締役を務めた縁があり、在任中に、「近い将来グーグルのような会社が同社の手ごわい競争相手になったりM&Aされるようなリスクに備えておいた方が良い」という警鐘を鳴らしたことがあり、いよいよそのような話が顕在化してきたように感じたからです。

もちろん、今回の話は、そのもっと前段で、国際機関のECMWFや日本の気象庁が今後の中期予報モデルをどうするか、というようなレベルの話ですが、超大規模データやAIを扱うことが得意なグーグルのような会社は、今後気象予報の世界でも本格的に頭角を現してくる可能性があることは間違いないでしょう。

単なる個人的な興味から今回は本件を取り上げてみましたが、AIの専門家たちは、囲碁や将棋の分野(グーグル/ディープマインドのアルファ碁など)、たんぱく質の構造などの生命科学の分野、そして気象予報の分野etc.というように、ありとあらゆる分野に大きな存在感を発揮し始めています。まさに本格的なAI時代の幕開けを感じますが、この話もその流れの一端としてお伝えしました。

※本記事は有料メルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~ 』2024年11月15日号の一部抜粋です。興味をお持ちの方はぜひこの機会にご登録ください。

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辻野 晃一郎(つじの・こういちろう):福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

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【著者】 辻野晃一郎 【月額】 ¥880/月(税込) 【発行周期】 毎週 金曜日 発行

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