イーロン・マスクはホワイトハウスを乗っ取るつもりなのか
トランプ自身がこんな風であるとして、誰が次期政権を操るのか。というより、トランプのその有様をいいことに、それを利用して裏から政権を操ろうとするのは誰なのか、という問題が出てきます。
2016年選挙で選対本部長、政権の首席戦略官を務めたのはスティーブン・バノンでした。「flood the zone with shit(あたり一帯をクソで埋め尽くせ)」と言い放ち、大量の嘘や曖昧な真実を際限なく発信し続けることで、事実とフィクションの境界線を引くことが不可能な状態をつくり出そうとし、ある程度成功しました。
そのshitすなわちクソ情報の代表がQアノン陰謀論。「世界規模の児童売春運営している悪魔崇拝者・小児性愛者・人肉嗜食者によるディープ・ステート(影の国家)が世界を裏で支配しており、トランプはこれと密かに戦っている」と主張、神に遣わされた救世主としてトランプを崇拝するというカルトを生んだのです。
それに対し、今回2024年選挙では、ツイッターを買った世界一の大富豪イーロン・マスクが躍り出てトランプに180億円を寄付し、政権のメイン・スポンサーの座を得ただけでなく、自らDOSE(Department of Government Efficiency)のチーフとして政権入りすることになりました。
これはディパートメントとなっているので、新しい省庁ができるかのように見えて、実は法制上に位置付けられた「省」ではなく単なる助言機関のようなものであるらしいのですが、いずれにせよイーロンのような問題児がカネに飽かせてホワイトハウスに肩書を得、我が物顔に出入りする形が出来上がったわけです。
もちろんQアノンも終わったわけではなく、例えばこのほどFBI長官候補に名が挙がったインド系米国人のカシュ・パテルはQアノン信者で、しばしばトランプに会っていますが、会うたびに「陰の国家があなたを狙っている。私があなたを救う」と囁いて洗脳し続けている(毎日新聞12月5日付)。FBIが捜査の対象としなければならないような人物が、大統領から「長官」として派遣されてくることになるわけです。尤も議会がこの人事を承認するかどうかは分かりませんが。
このように、Qアノンが依然として生きている上に、新しくイーロンのような「SNS金権亡者」が被さってきた形になっています。
イーロン自身も桁外れの変人で、テスラなど自分の会社では「絶対主義的」と形容されるほどの独裁者ぶりで、気に入らない役員は即解雇し、社員にも突然、一方的に、数千人単位の大量レイオフを断行します。パワハラ疑惑に加えてセクハラ疑惑、大麻はじめ薬物疑惑も指摘されています。
2度結婚し、その2人の妻と別の2人の愛人の間に9人の子供がおり、そのうち長男はトランスジェンダーで、それを断じて認めようとしないイーロンと決別して別姓を名乗っている。このことは彼にとってトラウマで、激しい反LGBT論者として知られています。
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