中3死傷、柏市夫婦殺人…中高年男性の「悪意」に日本社会が敗れる根本理由。犯罪抑止に必要なのは懲罰か保護か?

 

「応報」や「断罪」よりも「解明」こそが重要

個人の犯罪心理の解明というのは、もちろん簡単なことではありません。ですが、凶悪犯罪にしても、そこが重要であり動機の解明と表裏一体だと思います。その点で危惧されるのが日本における、応報刑を求めて「済ます」風潮です。

一番の例は、オウム真理教の事件です。犯罪のスケールから言えば、現行法の最高刑が適用されるというのは仕方がないとは言えます。そうではあるのですが、オウムの事件の場合は、あまりにも犯罪心理の解析というのが不十分でした。例えばですが、教団の幹部にあって科学的な知識を使って犯罪を凶悪化させていった「理系の」人物の存在が多く指摘されていました。

どうして彼らが犯罪集団に引き寄せられていったのか、その心理的なメカニズムはこの犯罪の重要な部分でしたが、彼らの多くが処刑されることでその解明は不可能になってしまいました。時期的にバブル経済が最悪であった年代ですから、理系の専門家が「根の暗いオタク」などと差別されていたわけです。そのことと、科学者であるにも関わらず麻原の悪質な超常現象トリックなどに騙されていった過程がどう関係しているのか、これは事件解明の重要な部分ですが、まったく不明なままに終わりました。

池田小学校の事件もそうで、この実行犯の場合は「早く殺してくれ」などと喚いていたわけですから、どう考えても「楽にしてやる」などという恩典を与えるのはおかしいわけです。ですが、社会的に応報すれば「済んでしまう」という感情に流されてアッサリ処刑してしまったのです。恵まれたように見える子どもに悪感情を抱く大人が出てくるというのは、誰でもなんとなく分かります。ですが、そのことと、大量殺人をやって、しかも反省せずに殺してくれというのは、そう簡単な心理ではありません。類似の事件の再発を減らすためにも、もっともっと解明が必要であったと思います。

いずれにしても、特にオウムの場合は、上川陽子さんという人は、「汚い仕事をすれば政治的加点になる」という思惑だったのかは分かりませんが、社会に満ち満ちている応報すれば「済む」という感情に乗っかって執行のハンコを押し続けたわけです。とにかく事件の本質的な解明という意味で、これはマイナスでした。

とにかく、応報とか断罪ではなく、まず解明をという発想でなくては、類似の犯罪を減らすことはできないように思うのです。

警察への「丸投げ」を見直そうとしたアメリカ

その点で言えば、2020年から始まったアメリカのBLM(黒人の生命の尊厳)運動における「警察予算カット」という主張は傾聴に値します。

このBLM運動では「デファンド」つまり警察への「予算カット」が大きなスローガンとなったのでした。つまり、黒人社会などに対して、警察が必ずしも効果的に守ってくれないのなら「予算をカットするしかない」というのです。心情としては怒りの先にそうした主張となっているように見え、その意味では民主党の主流派(バイデンなど)は決して積極的ではなかったのですが、主張の本質を理解していなかったのかもしれません。2024年の大統領選では、民主党のハリス候補が、ある時期にこの「予算カット運動」に賛同していたとして、共和党の激しいネガキャンペーンの標的になったこともありました。

しかし実際には、この「警察予算カット運動」の本質は、単純な警察敵視というわけではなかったのでした。これは重要な点です。それは簡単に言えば、「コミュニティの問題解決を警察だけに任せない」という考え方でした。

例えば、警官による暴力を誘発する原因として「家庭内暴力(DV)」の問題が契機となることが多いわけです。DVが起きた場合に、そこで被害者であったり、または騒音を聞いて近隣の家庭が緊急通報する、そこまではまあ当然の行動です。

そこで緊急通報(911=アメリカの場合は警察と消防は共通番号)がされ、場合によっては緊急性が認められると「最初の対応者(ファースト・レスポンダー)」としては通常は警察が派遣されます。DVだけではありません。例えば一目でわかる自閉スペクトラムや極端な多動などの性格を持った人物が「異常な行動をしている」として、無理解な目撃情報によって通報されてしまうということがあります。

問題は、そこで黒人独特の言語表現やカルチャーについて、白人警官が正確に理解できずに、多くの局面でコミュニケーション上の誤解が起きるということがあるわけです。具体的にはDVなり、個性の問題からくる、彼らなりの白人警官に対する「反抗姿勢」の「危険度」が正確に伝わらなかったのです。そこで恐らくは「殺意と誤認される」ということがあったと考えられます。

一方で、2020年にBLM運動の契機となった被害者ジョージ・フロイド氏の場合は、警備員などをしていた普通の市民でした。ただ、フロイド氏は背が高い巨漢であり、それが白人警官たちの警戒心を誤って刺激した、つまり差別感情の原因になったと考えられます。

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