カルロス・ゴーン“負の遺産”。大リストラと値引き販売でV字回復もブランド力を失った日産のヤバすぎる現状と「ホンダとの経営統合」の裏

 

日産の「第2のシャープ化」回避のために動いた経産省

…そんなわけで、そこに目をつけて日産の買収に乗り出したのが、台湾のホンハイ(鴻海)精密工業でした。日本の家電メーカー、シャープを買収したことでもお馴染みのホンハイは、アップル社のアイフォンを受託生産している企業ですが、スマホに続く次世代の成長ビジネスとして、EV(電気自動車)事業やAI(人工知能)事業を進めています。

ホンハイはすでにEV事業部を立ち上げ、2022年までに複数タイプのEV試作車を発表して来ました。つまり、開発ベースでは一定の水準に達しているのです。しかし、これを量産して販売するとなると話は別で、新たに自動車会社を作らなければなりません。でも、イチから自動車会社を作るのは時間が掛かりますし、そのノウハウもありません。

そこでホンハイは、もともとは日本企業の下請けからスタートした会社ですし、シャープの買収という成功例もあるため、日本の自動車メーカーに目を向けたのです。今の日本は、アベノミクスの失敗を頑として認めたくない政権与党によって円安進行を余儀なくされているため、日本企業の買収はバーゲン価格なのです。そして、自力では回復のメドが立たない日産に白羽の矢を立てたのです。

ホンハイは、まず日産への資金提供を提案し、続いて日本の経産省に「カルロス・ゴーン時代と同じの2万人規模のリストラを行なわないと日産に未来はない」と進言しました。これを受けて経産省は、ホンハイの日産買収を察知し、「第二のシャープを作ってはいけない!」と対策に動き出したのです。ホンハイは中国と近い企業なので、日本の基幹産業である自動車メーカーを買収されてしまったら、経済安全保障の観点からも極めて問題だからです。

そこで経産省は、ホンダに「日産の救済」を打診するとともに、日産には「早急の回復」を指示したのです。この見事な連携プレー、サスガは大企業が自民党に企業献金し、その見返りに各省庁が公共事業を振り分けるという、政権与党と各省庁と経団連とが一体化した政官財の癒着国家です。これじゃあ国会で小泉進次郎が自分の答弁時間に「企業献金の必要性」というファンタジーポエムを朗読し続けているのもうなずけます。

で、これを受けて、日産の内田誠社長は先月、全社員の7%に当たる約9,000人のリストラを発表しました。これは、ホンハイの「2万人規模のリストラ」という進言に対する精一杯の対抗策でした。しかし、現実問題として、これではまったく不足であり、言葉は悪いですが「焼け石に水」なのです。そのため、日産はホンダに救済してもらうしか道がなくなり、日産の買収を進めるホンハイとの主導権争いが始まったというわけです。

そんなホンハイのEV事業部の最高戦略責任者(CSO)は、もともと日産の副最高執行責任者(副COO)であり、日本電産の社長兼最高経営責任者(CEO)も歴任した関潤(せき じゅん)氏(63歳)です。関氏は日産時代、社長兼CEOだったカルロス・ゴーン氏に目をかけられて出世して日産のナンバー3まで上り詰め、ゴーン氏が失脚した後は「次期社長のイスに最も近い男」と呼ばれたこともありました。しかし、現在の内田誠氏が社長兼CEOとなり、関氏は日産を去って日本電産へ移ったのです。

その関氏に目をつけたのが、どうしても日産が欲しいホンハイでした。関氏は日産でEVの駆動用モジュールである電動アクスル事業に関わっていたので、ホンハイがEV事業を進める上で必要な人材でした。しかし、それ以上に、日産内部を知り尽くしている関氏は「日産買収要員」として必要不可欠だったのです。そこで、日本電産の13倍の売上高を誇るホンハイは、関氏を特別待遇で招聘(しょうへい)し、EV事業部のトップに据えたのです。

今回、ホンダと日産の経営統合の発表を受けて、関氏はすぐにフランスへ飛びました。日産の筆頭株主であるルノーの上層部と面談し、日産買収の第一歩として大量の日産株を手に入れることが目的です。

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