「安倍路線」からの大転換は最低条件。拉致問題の解決に向けて日朝交渉がまったく進まない決定的理由

 

日本政府が11年間も無視し続ける拉致被害の生存者

日本の課題との問題でいえば、トランプ大統領と金委員長の間では、朝鮮戦争中に亡くなった米兵の遺骨収容問題(共同声明の4項目には「米国と北朝鮮は(朝鮮戦争の米国人)捕虜や行方不明兵士の遺体の収容を約束する。これには身元特定済みの遺体の即時帰国も含まれる」)が書き込まれた。

米朝合意を進めるためワシントンと平壌に連絡事務所を設置することも協議され、トランプ大統領は実現のため書類にサインするつもりだった。それを壊したのがCIA長官として極秘訪朝した経験もあるマイク・ポンペオ国務長官とジョン・ボルトン補佐官だった。北朝鮮を「悪の枢軸」とするボルトン流の「新自由主義」による抵抗だった。

しかし米兵の遺骨問題は解決していない。ここで問題なのは日本政府の抱える課題との共通性である。

2014年に日朝間でストックホルム合意が結ばれた。いまでは死文化してしまったが、日本政府は公式には有効だとしている。北朝鮮側は「あらゆる日本問題を解決する」ために特別委員会を設置していた。「日本問題」とは

  1. 1945年前後に北朝鮮域内で死亡した日本人の遺骨及び墓地
  2. 残留日本人
  3. いわゆる日本人配偶者
  4. 拉致被害者及び行方不明者を含む全ての日本人

に関する調査である。報道されていないが、このとき安倍晋三総理は平壌に連絡事務所を設置することも検討していた。実際に外務省から派遣する職員も検討していたのだ。

常識的に判断すれば国交のない国同士が、相互の課題を進めようとすれば、大使館はないにせよ、常設的な拠点を置くことは極めて合理的な判断である。アメリカが北朝鮮と交渉するため、ビル・クリントン政権時代から連絡事務所構想を持っていたことは不思議ではない。

米兵の遺骨も日本人遺骨も埋葬された現地がある。残留日本人やいわゆる日本人妻も暮らしているのは北朝鮮だった。「だった」と過去形にしたのは、残念ながら一時帰国を果たせず、おそらく亡くなっているからだ。2014年のストックホルム合意の時点で生存していた日本人は、荒井瑠璃子さんだけで当時すでに86歳だった。

この交渉経過で北朝鮮側は政府認定拉致被害者の田中実さん生存も伝達していた。しかし日本政府はそれから11年が経つのに、いまだ公式には認めていない。ひとりの人生を無視しながら、政府の取り組みはほとんど成果がないままに、解決をトランプ政権に委ねるのだろうか。

日朝交渉の行方は日米韓の国際関係で判断していかなければならない。この3か国にそれぞれ動きが出てきた。

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ジャーナリスト、テレビコメンテーター。立憲民主党所属の元参議院議員(2期)。出版社に勤務後、フリージャーナリストとして「朝日ジャーナル」「週刊文春」など霊感商法批判、統一教会報道の記事を手掛ける。1995年から2007年まで、日本テレビ「ザ・ワイド」に12年間レギュラー出演。2010年には民主党から立候補、参議院議員となり、北朝鮮拉致問題、差別、ヘイトスピーチ問題などに取り組む。「北朝鮮 拉致問題 極秘文書から見える真実」(集英社新書)、「改訂新版 統一教会とは何か」(大月書店)など、著書多数。

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