可愛らしい言葉の意味が「若い女性の愛国者」の衝撃。日本在住25年の中国人が「ネット流行語」から読み解く“中国のリアル”

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2020年8月から23年7月までの3年間にわたり、メルマガプラットフォーム「まぐまぐ!」にて、メルマガ『黄文葦の日中楽話』を発行していた、日本在住25年中国人ジャーナリスト黄文葦(こう・ぶんい)さん。日中の文化比較を中心に、現代中国のネット社会に蔓延する「流行語」を紹介し、そこから見えている中国の今を伝えていました。このたび、そのメルマガの内容を一冊にまとめた黄さん執筆の単行本『新中国語から中国の「真実」を見る! 現代流行語解説と日中文化比較』(風人社)が発売されました。

元・中央公論新社の編集者である堀間善憲さんは、黄さんの執筆した本書について「心揺さぶられずにはいられなかった」と正直な読後の感想を述べ、「目からウロコの落ちるような解説が<日常生活の流行言葉>と<コロナに関する新中国語>の計113の言葉につけられているのは、まさに圧巻だ」と絶賛しています。

等身大の隣人を知るために 堀間善憲

一読三嘆とは一度読んで何度も感心するという意味だが、黄文葦の『新中国語から中国の「真実」を見る!』(風人社)を手にして、久しぶりにこの四文字熟語がよみがえった。四半世紀にわたって日本と中国の双方に軸足を置き、両国の言語を自在に操るジャーナリストならではの快著というべきだろう。近年中国のネット社会にはびこる流行語を巧みに読み解く手際に、わたしは思わず膝を打ったり、ニヤリと笑ったり、何やらしみじみとしてしまったり……と、さまざまに心揺さぶられずにはいられなかった。

たとえば、【小粉紅(シャオ フェン ホン)】。一見すると可愛らしい言葉だが、若い愛国者、それもとくに女性を指すという。粉紅はピンクの意味で、それがやがて完全な共産主義の「赤」に染まるかどうかは未知数といった含意があるらしい。

あるいは、【巨嬰(ジュ イン)】。巨大な赤ちゃんという意味。もっぱら、自己中心的で規律を守る意識が低い大人に対して使われるという。かつて著名な心理学者が中国社会の「巨嬰化現象」について分析した本を出したところ発禁処分になったそうだ。

また、【忽悠(フー ユウ)】。本来は物体がゆらゆらするという意味のところ、現在では物体の形容ではなく、人間がでたらめをいう、法螺を吹く、相手を騙すなどを意味するようになって、まさに中国の社会状況を的確に表した言葉として大流行しているとか。

【人生贏家(レン シェン イン ジャ)】は、金銭面、家庭面、仕事面のすべてが完璧な人生の「勝ち組」を意味するという。もっとも、それよりも人生の楽しみ方を知っているほうが勝者との考え方も。なお、反対語の「負け組」を意味する中国語は存在しないらしい。

さらには、【不忘初心(ブ ワン チュー シン)】。初心忘るべからず。ただし、日本のわれわれの使い方と違って、現在の中国では2017年の共産党大会の報告で、中国人民の幸福と中華民族の再起のために働くことが「初心」とされて賑々しく流行語になったという。

こんなふうに目からウロコの落ちるような解説が「日常生活の流行言葉」と「コロナに関する新中国語」の計113の言葉につけられているのは、まさに圧巻だ。そのあとには独自の視点に立った日中文化比較のケーススタディも。

目下、日本でも中国でもマスコミはとかく相手国に批判を浴びせるばかりの状況のもとで、黄文葦のこの小さな一冊には特大の価値があるだろう。何はともあれ、まずは等身大の隣人を知ることが出発点だという、当たり前のことを教えてくれているのだから。(元・中央公論新社編集者

『新中国語から中国の「真実」を見る! 現代流行語解説と日中文化比較』とは?

今、中国で流行っている言葉は、中国語の教科書には載らないけれど、今の時代の中国社会・文化を生き生きと映している。

近年、中国でもネット用語が非常に増えた。これらの流行語(新中国語)には、民間の知恵やユーモアが溢れている。
24年間、日本で暮らした著者が紹介する「新中国語」の言葉から、現在の中国の社会事情と人々の価値観が見えてくる。

<自分は確かに、日本と中国の「狭間」にいるという感じです。日本で二十数年間暮らしても、日本人から「外人」と見なされ、中国に帰ると、日本人と見なされ…。とはいえ、日本と中国の「狭間」は決して狭い空間ではなく、むしろ広いです。なぜなら、私は日本と中国の両方を見ることができるからです。二つの言語を把握していますから。日本でも中国でも、私はよそ者だと自覚しています。「『外人』という生き方」もこれから書きたいテーマですね。>

<まだまだ、多くの日本人のステレオタイプ意識は根強いです。いまだに日本人と食事をすると、「黄さんは中国人だから、冷たい水を飲めないでしょう」「黄さんはなぜ中華料理を食べないの」などと言われます。私は24年間日本に住んでいて、私の胃はすでに「日本の胃」になっています。冷たい水も飲めるし、中華料理はあまり好きではありませんし…。中国人だからといって、中華料理を好きだとは限らないのです。>(新中国語から中国の「真実」を見る! 現代流行語解説と日中文化比較』カバーより

『新中国語から中国の「真実」を見る!』もくじ

まえがき  3

日中関係に関する世論調査は無意味だ  13

第1部 「新中国語」とは  17
1.「新中国語」とは  18
2.流行言葉の「寿命」  21
3.日常生活の流行言葉100  23
4.コロナに関連する新中国語13  115

コロナ禍とコロナ化  124

第2部 日中文化比較  127
日中の新年料理比較  128
「陰翳礼讃」型都市づくりを  129
ディオールの例から考える「文化の盗用」と「文化の流動」  130
謝りは文化、それともビジネス?  134
中国人の「養児防老」の意識を変えるのか?  138
中国では、なぜ上野千鶴子のような人物がいないのか  140
ジャック・マーとトニー・レオンのように日本で隠居生活を送ろう  144
日中医療の比較 中国で日本式のリハビリを実現することは可能なのか  148
働き方改革は上下関係の民主化から始めよう  152

あとがき 「二刀流」を辞めました!  156

『新中国語から中国の「真実」を見る! 現代流行語解説と日中文化比較』(風人社)

新中国語から中国の「真実」を見る! 現代流行語解説と日中文化比較

著者:黄文葦
定価:1,500円+税
発行元:風人社

黃文葦(こう・ぶんい)
1967年、中国福建省福州市生まれ。日本と中国、日本語と中国語を愛する在日中国人のバイリンガル作家。中国の大学と日本の大学院でマスコミを専攻し、十数年間、日中両国のマスコミの現場を経験した後、2009年から留学生教育に携わる仕事に従事。2000年来日以降、中国語と日本語で教育、社会、文化の問題に焦点を当てたコラムを執筆し、両国の「真実」を相手国に伝えることを模索している。2019年に電子書籍『日中文談: 在日中国人の日本観(エッセイ)』を出版。2020年8月から2023年7月までの3年間、日中文化比較のメルマガ「黄文葦の日中楽話」を発行。長年にわたり、「二刀流」で教育者とフリージャーナリストとして活動。2024年7月から文筆業活動に専念。

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