同盟国を呆れさせ親米アラブ諸国を激怒させたトランプのガザ再建案
では、もう一つの案件であるガザおよび中東全域の安全保障へのコミットメントについてはどうでしょうか?
これについては、皆さんも想像に難くないと思いますが、ロシア・ウクライナ案件に比べてもさらに複雑かつ困難な見通しが存在します。
その元凶はハマスによる急襲と誘拐であり、それにno mercyで反撃し、その後、自衛の範囲を遥かに超えるレベルでハマスの壊滅と、パレスチナ人に対する大量殺戮を実行したイスラエルの暴走で、その後、イスラエルが一気に予てからの頭痛の種だったヒズボラへの大規模攻撃と弱体化、イランに対する牽制的な攻撃とハマスとヒズボラのリーダーの暗殺実行によって突き付けた最後通牒、そしてそれらに対して、効果的な行動をしてこなかったサウジアラビアをはじめとするアラブ諸国、そして明らかにイスラエルの暴走に加担したアメリカのバイデン政権の中途半端な介入です。
イスラエルのネタニエフ首相は、敬愛し庇護を求めるトランプ大統領に敬意を表する意味も込めて、就任に合わせてハマスとの一時休戦と人質交換に合意して花を持たせて、一応停戦を持続させていますが、ハードライナーなスタンスもまだ取り下げておらず、いつ停戦を放棄し、再度、ガザへの攻撃を再開するかは分からないという牽制も忘れていません。
そのような中、訪米時に金のポケベルを贈ったトランプ大統領が自らの横で、世界に向かって「アメリカはガザを所有し、再開発する。そしてすべてのガザ住民は周辺国に引き取らせ、恒久的に移住させる」という無茶苦茶な暴論を聞き、驚きつつも笑いをこらえきれなかったネタニエフ首相は、「これでアメリカはイスラエルの味方として動く」と確信したものと思われます。
しかし、このトランプ大統領の発言は確実に欧州の同盟国を呆れさせ、親米のアラブ諸国を激怒させることになり、果たして賢明な動きだったかどうかは分かりません。
国連事務総長はこの発言を民族浄化の提案と激しく非難し、サウジアラビア王国やアラブ首長国連邦、トルコなどは「パレスチナ人の自決権の原則を踏みにじる愚かな提案であり、決して受け入れることができないだけでなく、考慮するにも値しない」と激しく反発していますが、トランプ大統領自身はこれらの“外野の声”に耳を貸さず、ただ宣言の通り、隣国エジプトとヨルダンに180万人超のガザ市民(パレスチナ人)を恒久的に受け入れることを迫まっています。
今週、訪米中のヨルダンのアブドラ国王は、トランプ大統領からの依頼を非難しつつも、20万人ほどの重病や重症の子供たちの受け入れについては合意し、トランプ大統領の押しに屈する部分も出てきています。
人道的観点から、ヨルダンの動きは誇るべきものと考えますが、その背後にはヨルダンが抱える国内外でのジレンマが複雑に関係しています。
まず人口の70%ほどをパレスチナ人が占めるため、王室に対する求心力を保つためにはアブドラ国王としてはパレスチナ人の権利や宿願を無にするようなことを受け入れることは自殺行為となるという国内事情が存在します。
しかし、中東においてイスラエルに次いでアメリカからの支援額で第2位を占めるという現状もあり、アメリカのご機嫌を損ねて対ヨルダン支援が萎むようなことがあると、国家経済の運営が滞るか、一気にスランプに陥るという危険性に直面することになります。
これについては、サウジアラビア王国をはじめとする周辺諸国が経済的なテコ入れをすれば何とか乗り切れる可能性もありますが、アメリカからの支援漬けになっている中東諸国の現状に鑑みると、それもまた非常に難しい選択肢と言えるでしょう。
ゆえにアブドラ国王としては返答に困ることになり、結局、「最終的な判断はエジプトの動きを見てから決める」とエジプト任せという苦し紛れの対応に終始することになったようです。
この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ









