「キレたトランプがロシアを攻撃」はあり得るのか?“成果”の積み上げに焦るトランプ、それを絡め取る独裁者プーチンの強かさ

 

トランプが下しかねない米国の軍需産業を潤わせるような決定

【誰が】については、恐らくトランプ大統領の名代としてバンス副大統領が「これがアメリカ政府が支援できる案である」とでもいいながら、ロシアとウクライナの当事者に提示するものと思われますが、そのinitial planの内容如何では、交渉が完全に決裂し、後戻りできない状況に陥る可能性があります。

ロシアとしては、トランプ大統領に敬意は表しつつも(ゆえに交渉のテーブルにはつく)、アメリカおよび欧州各国による対ロ制裁の継続の可能性は織り込み済みで、受け入れ得る条件のレベルは下げるつもりがありません。それはつまりすでにロシア軍が占拠し、一方的にロシア領に編入した地域とクリミアを恒久的にロシア領とすることと、ウクライナのNATO入りを恒久的に認めないという条件です。

後者については、ヘグセス国防長官の発言内容から推測するに、すでに“合意”できるものだと思われますが、前者についてはまだどのような条件がアメリカから提示されるのか、全く分かりません。

これまでロシアとの交渉も行ってきた経験に照らすと、いろいろと言いながら、交渉を引き延ばし、時間稼ぎをしつつ、ロシア軍の体制を整えたり、相手側の不利になるような情報を探り出して揺さぶりに出たりするという手法に出るのだろうと見ているため、交渉のテーブルにロシアが出てきたこと自体は前向きな発展だと思いますが、この協議はかなり長引くことになるだろうと予測しています。

問題はそれにゼレンスキー大統領が耐えられるか?そしてトランプ大統領が耐えられるか?です。

特にトランプ大統領については、実は当初の「就任から24時間以内に」を「半年以内に」条件を後退させましたが、これはいかにこのロシア相手の協議が難航しそうで、状況がいかに複雑になっているかの情報に触れたからだと考えられますが、その“複雑で”かつ“強烈に難しい”状況は今後もしばらくは変わらないと思われます。

その場合、一刻も早く目に見える成果を積み上げる必要があると考えているトランプ大統領が(理由は2年後の中間選挙でも、4年後の次の大統領選挙でも共和党が勝利を収めることで、自身の保身が叶うと見越しているため、「ほら、私が大統領をすればこんなに素晴らしい成果がでる」というアピールをしたいから)、プーチン大統領の百戦錬磨の技と揺さぶりに絡めとられ、“合意”を条件として、ロシアの条件を飲まさせるような状況に陥る危険性があると懸念します。

逆に「トランプ大統領がキレて、ロシアに攻撃を加えるのではないか」と主張する専門家もいらっしゃいますが、個人的にはその可能性は限りなく低いと見ています。

それは、トランプ大統領自身、アメリカを戦争に直接介入させることに全く関心がないことと、明確に戦争嫌いであり、戦争が全くアメリカの、そして自身の利益にならないものと知っているため、実際にロシアと一戦を交えるようなことはしないと考えます。

しかし、世界最強の軍隊と軍事力を誇るアメリカの力は、ロシアや中国に対して誇示して、アクティブな抑止力として用いることには大きく力を注ぎ、そのためには核兵器も含めて、最新兵器の開発と配備を急ぎ、アメリカの軍需産業を潤わせるような決定は大いに考えているように思います。

続々とミュンヘン入りしている友人たちと関係者たちの緊張した様子が伝えられてきていますが、今はただ、協議の再開が次につながるようなポジティブなものであることを祈っています。

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