もはやまともに戦いを続けられる状況にないウクライナ
ところで“プーチン大統領の目標”とはどのようなものが考えられるでしょうか?
これまでの状況と様々な分析を見てみると、大きなゴールは【ウクライナをロシアの属国化すること】だと思われますが、そのためにウクライナのNATOへの非加盟の確約やウクライナ軍の規模制限(もしくは解体)、そしてゼレンスキー大統領の退陣を求めてくるものと思われます。
その意図はすでにトランプ大統領に届いているのか、今週になって、自身を非難したゼレンスキー大統領を“権限のない大統領”としてこき下ろし、「ゼレンスキー大統領はすぐに総選挙を行い、国民の信を問うべきだ」と発言していますが、それはプーチン大統領が描いたシナリオ通りになってきているように見えます(それにゼレンスキー大統領の任期が切れた2024年5月以降、繰り返しプーチン大統領が述べており、「ゼレンスキー大統領を交渉相手と見なさない」という挑発の内容とも合致します)。
これについてはアメリカの同盟国である英国のスターマー首相が非難し、「ゼレンスキー大統領は民主的なプロセスで選出された大統領であり、戦時中に選挙を先延ばしにするのは、英国も第2次世界大戦時にチャーチル首相が行って戦時内閣を率いているので、何らおかしなことはない」と応戦してみるものの、アメリカ側は反応せず、もしかしたら合意を急ぐあまり、トランプ大統領が“首の据替”を合意している可能性を疑いたくなる事態になっています。
このような状況に、プロセスから疎外されたウクライナはもちろん、欧州各国も非難を強めていますが、米ロのプロセスがこのまま進む抑止力にはなれそうにない理由がいくつか存在します。
ゼレンスキー大統領については、すでにトランプ大統領が彼の姿勢に対して嫌悪感をあらわにしており、上から目線で欧米各国に「~すべき」と指示してくることに耐え切れない様子で、実質的にディール・メイキングのプロセスから排除したいという意図が明確に見て取れます。
また“合意している”と豪語したウクライナのレアアースの50%を戦争終結後にアメリカに差し出すというディールをゼレンスキー大統領が蹴ったと伝えられるや否や、トランプ大統領によるゼレンスキー大統領批判が活発化しています。
そのような中、戦況に関する様々な分析から明らかになってきたのは、ロシア・ウクライナ前線での戦況が明らかにウクライナに不利になっていることと、ウクライナ側の戦意消失と5万人に届きそうな戦死者と40万人強の重傷者、そして戦線からの離脱と逃避、さらには徴兵逃れが連発し、「まともに戦いを続けられる状況にない」ということです。
その情報はもちろんアメリカ政府にも入っていますし、EU各国にも共有されており、EU各国の内政的な問題と絡んで、支援遅れが顕著になっています。
トランプ大統領とプーチン大統領が、ゼレンスキー大統領を飛ばして合意しようとしている中、そのプロセス、特に大きな利益を生むと思われる戦後復興への関与から欧州が排除されることを極めて懸念するEUは、協議と並行してパリで首脳会談を開き、欧州としてウクライナの今後にコミットすべきとの姿勢を打ち出していますが、これまでのところ米ロ共に気にもかけていないそぶりを続けています。
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