「憎悪と怒りと欲望剥き出しの政治」の道に堕ちゆく米国
第2に、トランプ個人の幼稚さ、認知障害の進行という特殊要因がある。歴代NIC報告が言うように、こういう時期だからこそ米国は余計に謙虚になって他国の声に耳を傾け、世界の一角に居場所を見つけるよう振る舞わなければならないというのに、トランプはそれと真逆の「MAGA」をスローガンにして人々を惑わせた。
「関税」を米国蘇生の特効薬のように言い、支持者も今はそれを信じているけれども、それで世界からモノが入ってこなくなって困るのは米消費者であり、それでもどうしても入用なモノを輸入せざるを得なくなった時にその関税分を負担するのは米消費者であるという単純な事実に支持者たちが気付くには、中間選挙までの2年間を必要としないのではないか。
第3に、第1期のトランプより第2期の方がさらに酷くなっているのは、イーロン・マスクの我が物顔の跳梁跋扈が象徴するように、SNSなどネット文化の刹那主義にさらにAIの濫用が加わったことによる「憎悪社会」化という要因がある。
『サピエンス全史』(河出書房新社、16年刊)の世界的ベストセラーで知られるユヴァル・ノア・ハラリは今年1月1日「クーリエ日本版」のインタビューでこう述べている。
▼アルゴリズムによって動くソーシャルメディアが世界中の民主主義や社会を不安定化させているという大きな災難が、私たちにはもう降りかかっています。XやYouTube、Facebookなどのアルゴリズムは、ユーザーのエンゲージメント〔意訳:関心の惹きつけ〕の向上や、それらメディアの利用時間を延長させるというタスクを与えられました。
▼それが間違いなのです。なぜなら、ユーザー・エンゲージメント向上のいちばんの近道は、憎しみや恐怖、欲を撒き散らすことだと、AIは知ってしまった。人の心の中にある憎しみのボタンを押せば、彼らはスクリーンに釘付けになります。そして、ソーシャルメディアを閲覧している時間が延び、アルゴリズムはその間に広告をせっせと表示します。
▼憎しみや怒りを広がるようAIに指示を出した人などひとりもいません。しかし、アルゴリズムは予期せぬ行動に出てしまった。だって、AIなのですから……。
そして、マスクはそのソーシャルメディアの最強の1つであるXのオーナーであり、その彼を事実上の政権最高顧問としてホワイトハウスに招いたのがトランプである。ここから米国はいよいよもって「憎悪と怒り、下品な欲望剥き出し」の政治への下り坂を転げ始めたのである。
さあて、これに対抗しそれが米国のみならず全世界に被害をもたらし始めている被害を食い止めるのは「愛と微笑み、品格と慎ましさ」の政治でなければならないが、それは日本から立ち現れるのだろうか。
(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2025年3月3日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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