悪意か無能か。アメリカから資金援助を受けた組織の「中国サゲ情報」を垂れ流す日本メディアに問われる存在意義

 

西側世界から陰謀論のように扱われてきた中国政府の主張

中国はかねてから香港の民主化デモや新疆ウイグル自治区の強制労働疑惑がターゲットにされるたび、「裏にはアメリカの策動がある」と反論し続けてきた。アメリカの息のかかった組織が暗躍し、騒ぎを起こしたり問題をでっちあげている、と。

ただ、そうした主張はこれまで西側世界では陰謀論のように扱われ、一顧だにされてこなかった。

しかし今回、トランプ政権がいみじくも自ら対中工作の実態を白日の下にさらしてしまったのだ。

こう書くと日本人の多くは「人道援助の裏側で……」と驚くかもしれないが、援助とはそもそも安全保障の一つの手段に過ぎない。歴史的にも学問的にも、安全の確保が目的である。

今回はただ、金の切れ目が従来は隠されていた「暗黙の了解」を表に出してしまっただけのことだ。

実際、記事中で名指しされたオーストラリア戦略政策研究所(ASPI)の存在などは、中国を見てきた者には「いまさら」感が拭えない。

キャンベラを拠点とするシンクタンク、ASPIは、中国がウイグル自治区で強制同化プログラムを行っているとする問題を喧伝してきた最右翼の一つだ。

ASPIの発信をBBCなど欧米メディアが報じ、その下請けとして日本のメディアが追従するパターンで中国批判が形成される。

WSJによれば、ASPIは「アメリカ側が資金の提供を停止したことにより、『サイバーセキュリティとテクノロジー問題に焦点を当てた中国関連の研究およびデータプロジェクト(約120万ドル相当)の作業を中止することになった』と述べた」という。

アメリカから資金提供を受けながら中国に不利な情報をせっせと発信し続けてきた研究所が、資金を提供しないなら「仕事をしない」と宣言したという話だ。

定例会見でこのことを問われた中国外交部の毛寧報道官は、「背後の『金主』のため中国関連のウソを大量にでっち上げるいわゆる『研究成果』は基本的な事実根拠にも欠け、すでに何度も虚偽情報であることが証明されている」と、こき下ろした。

感情的な反応のようだが、この指摘は間違っていない。

ASPIは、米国務省から資金を得て反中世論形成を行ったとオーストラリア議会でも問題視された研究所だからだ。

しかもASPIがかつてウイグルの「秘密再教育キャンプ」と発表した施設の90%以上が、実は学校や病院であったことが明らかになっている。

中国政府が写真を付けて論破したからだが、それに対するASPIの再反論は現在に至るまで何も出ていないのだ。

そして残念なことは、日本のメディアの多くが、ASPIなどアメリカの資金援助を得ているNGOや研究所が発信する「成果」を無批判に垂れ流し続けていることだ。

悪意なのか無能なのかは分からない。しかし、こんな簡単な事実確認さえできないのであれば、そんな報道機関がいるのだろうか、存在意義が問われることになるのだろう。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年3月16日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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