空域争奪作戦を任務とする「内側の空軍力」構想
本研究の示すところでは、中国のミサイルは、在日米軍基地の空中給油機やその他の大型航空機のための滑走路を1カ月以上も閉鎖させるだろう。他の地域ではその期間は3~4日間で済むだろう。
空中給油機からの燃料補給がなければ、第5世代のジェット戦闘機をはじめ多くの航空機の燃料搭載能力では、台湾海峡や南シナ海の目標に接近して地域内の現存の基地にまで帰還することが出来ない。
また、滑走路閉鎖によって米爆撃機は紛争が始まった途端にオーストラリア、ハワイ、もしくはアラスカに後退配備することが強いられ、そのため飛行時間が数時間長くなり、米国が爆撃機を1日に出撃させる回数は実質的に削減されるだろう。
このような米空軍基地への脅威について語るのは、今日の米空軍にとって間違いなく最も重要なことであるはずだが、そうすることを躊躇わせるテーマでもある。軍事紛争の始まりの時点で、統合司令部が空軍に直ちに臨戦態勢での空中パトロールを開始し台湾海峡にいる中国艦を撃沈するよう命じた場合、空軍は、以前の評価よりもはるかに非効率的な作戦しか実施し得ないという危険に直面する。
さらに悪いことに、中国の軍事計画立案者は、滑走路攻撃により米国の空軍力がほとんど使えなくなる期間を30日間以上と計算し、その絶好のチャンスの内に既成事実を確立しようと考えるかもしれない。もし北京が、素早く簡単に勝利を得られると判断すれば、その行動を抑止することは極めて困難になろう。
残念ながら、日本、グアム及びその他の太平洋諸島にある米空軍基地に対する中国のミサイル攻撃に対抗できる安直な方法はない。
もし米国が、より多くの航空機と人員を分散配置して基地や民間空港を確保するとか、直ちに滑走路を修復する能力を向上させるとか、地域全体でのミサイル防衛能力を強靭化するとかの対策をミックスしたとしても、日本、グアムその他の給油作戦のための滑走路が少なくとも最初の数日間、止まったままとなることは、どんな紛争の場合も避けられないだろう。
緒戦段階から空軍力を投射できる能力を再建するには、米国は中国人民解放軍より多くの支出をしようとするのではなく、彼らを「出し抜く」ことが必要である。旧式のパラダイムに賭け金を積み続けるのではなくて、紛争の最初から空軍力を動員できるようにするために以下のような新しい作戦概念を採用すべきである。
▼米国は、この精密誘導兵器の時代にそれらをひとまとめにして戦略的・戦術的優位を確保することに力を入れる一方、緒戦での制空の争いの負担の大部分を同盟国・友好国に分担させる。
▼米国の同盟国・友好国は、航空拒否のための戦略を持ち、多数のドローンやあらゆる型のミサイルを中心とした空軍を建設すべきである。それによって自国の空域を確保し、緒戦における中国の攻撃を米国の戦闘機や爆撃機の大規模な支援なしでも押し留められるようにすべきである。
▼米空軍は、第1列島線内部での同盟国・友好国の航空拒否作戦を支援すべきである。この「内側の空軍力」は、空域争奪作戦を任務とし、そのように訓練され装備された前進配備の航空部隊で、伝統的な戦闘機や爆撃機とは違って、機動性が高く滑走路無用の発射台を用いた大量の無人操縦機を中心に構築される。補給は、武器弾薬をパレットで積み降ろしすることができる輸送機で行う。この輸送機は中国の攻撃を押し留める上で2次的な役割を持つが、「内側の空軍力」の代わりになるものではない。
▼米空軍は、「内側の空軍力」が戦闘を継続できるよう補給と支援を優先的に行わなければならない。そのためには、物資の事前備蓄とインフラ整備への投資増大が必要で、そこには太平洋地域の民間空港の改良、頑丈な燃料貯蔵施設、及び武器、弾薬、装備、滑走路修理キットが含まれる……。
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